台湾現代史の変動に翻弄される人生の記録2023年10月08日

『台湾の少年(1)(2)(3)(4)』(游珮芸、周見信/倉本知明訳/岩波書店)
 『台湾の少年(1)(2)(3)(4)』(游珮芸、周見信/倉本知明訳/岩波書店)

 台湾マンガである。昨年7月から今年1月にかけて翻訳版が刊行された。蔡焜霖という実在の人物の一代記に台湾現代史を反映させた大河マンガだ。読み応えがある。

 蔡焜霖は1930年、日本統治下の台湾台中で生まれ、読書好きの青年となる。蒋介石政権の恐怖政治時代の1950年、20歳の時に無実の罪で逮捕され、離島の収容所で10年の刑期を過ごす。その後、紆余曲折や浮沈はあるものの、児童書出版や広告の世界で活躍し、現在は白色テロ時代の政治犯の名誉回復活動や人権教育に携わっている――そんな人の一代記マンガである。

 全4巻の各巻のサブタイトルは「1 統治時代生まれ」「2 収容所島の十年」「3 戒厳令下の編集者」「4 民主化の時代へ」となっている。

 私が台湾に関心を抱いたのは6年前だ。『台湾:四百年の歴史と展望』、『台湾とは何か』『台湾海峡一九四九』をはじめ何冊かの関連書を読み、4泊の観光旅行にも行った。

 複雑で波瀾に満ちた台湾現代史の概要をある程度は把握しているつもりだった。だが、本書を読むまで、蒋介石政権下の白色テロの苛烈な実態に思いを寄せることはなかった。火焼島の収容所も知らなかった。高校の読書会に参加しただけで懲役10年、少し逆らえばすぐに銃殺、軍や警察の方針は「百人を誤殺しても一人の犯人逃すな」だったという。毛沢東思想浸透への強い怖れがあったにしても、ひどい話だ。

 最終巻は民主化の時代であり、主人公が晩年を迎えてのハッピーエンドという雰囲気も漂う。だが、現実の世界はそう言い切れないのが悲しい。台湾の未来は不透明だ。

 主人公の以下の述懐が印象に残った。

 「1989年に天安門事件が起こるまで、ぼくは中国が台湾よりも開放的な国だと思っていたんです。」「大切なのは革命そのものではなく、平和裏に行われる改革なんです。それは会社も国家も同じで、それこそが正しい道なんです。」

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