ガルブレイスは懐メロ昭和歌謡……2021年03月21日

『今こそ読みたいガルブレイシ』(根井雅弘/インターナショナル新書/集英社インターナショナル)
 ガルブレイスは懐かしい名前だが、最近はほとんど目にしない。忘れられた経済学者だと思っていたので、本屋の店頭に次の新書が積まれいるのを見つけて驚いた。

 『今こそ読みたいガルブレイス』(根井雅弘/インターナショナル新書/集英社インターナショナル)

 近頃は『資本論』を再評価する本が目につく。そんな流れの本かなと思いつつ購入して読んだ。短時間で読了できる読みやすい本である。

 約40年前、社会人になって数年目の頃、何人かでサムエルソンの『経済学』(当時の標準的教科書)の輪講読書会をした。並行してガルブレイスの『ゆたかな社会』と『新しい産業国家』を興味深く読んだ。正統的なサムエルソン(新古典派総合)に対する異端のガルブレイスという構図だった。別の異端であるシカゴ学派のフリードマンに手を伸ばす気はせず、この学派が他を駆逐して後の正統になるとは思いもしなかった。

 本書の著者はガルブレイスの主著を『ゆたかな社会』『新しい産業国家』『経済学と公共目的』とし、読み継がれるのは『ゆたかな社会』だと見なしている。私は『経済学と公共目的』は未読で、他に読んだのは『不確実性の時代』だけで、そもそも読んだ内容の大半は失念しているので、何を読み継ぐべきかの評価はできない。

 と言うものの、本書を読んでいて昔の読書の記憶がまだらに浮かびあがり、ガルブレイスの名文に魅せられた記憶がよみがえってきた。変なたとえだが、本書を読みながら懐メロの昭和歌謡にうっとり浸っている気分になった。そして、ガルブレイスは経済学者というよりは社会学者、文明論の人だったと思えてきた。

 著者が指摘しているように、現時点で見ればガルブレイスの見解に誤りは多い。にもかかわらず「今こそ読みたい」と言いたくなる気持はわかる。大きな問題を抱えた現代、骨太な叡智を感じる論客が見当たらないのが問題なのだ。

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