新宿梁山泊の『愛の乞食』『アリババ』は一体の芝居2025年06月21日

 花園神社境内の紫テントで新宿梁山泊公演『愛の乞食』『アリババ』(作:唐十郎、演出:金守珍、出演:安田章大、水嶋カンナ、藤田佳昭、他)を観た。唐十郎初期作品の連続上演である。

 私は『愛の乞食』の初演(1970年、『ジョン・シルバー 愛の乞食編』)は観ているが『アリババ』(1966年初演)は観ていない。にもかかわらず『アリババ』は懐かしい。1969年公開の映画『新宿泥棒日記』(監督:大島渚)に登場する唐十郎が歌う「アリババの歌」の印象が強烈だったからだ。

 朝は海の中、昼は丘、夜は川の中、
 それはだあれ? ベロベロベ―――子供さん。
 ここはアリババ、謎の町。
 解けても解けない謎々に、
 今夜はふくろうも泣きませぬ。

 あの映画の随所で、ギターを抱えたフンドシ姿の唐十郎は、映画全体を統べる司祭のように、この不思議な歌を奏でる。チムチムニーのメロディが奇怪な世界を紡ぐ。私はこの映画で唐十郎に圧倒され、紅テントを追いかけることになった。

 今回の観劇に先立って戯曲を再読した(『愛の乞食』は『煉夢術』収録、『アリババ』は『謎の引っ越し少女』収録)。二つの芝居はやや雰囲気が異なる。

 『アリババ』は若く貧しい男女が暮らすアパートの一室に襲来するやや冥い幻境譚、『愛の乞食』は夜の公衆便所が海峡を超えた怪人が集う朝鮮酒場に重なり合う海賊ロマン追求譚である。両方ともに「緑のおばさん」が出てくるが、『アリババ』の「緑のおばさん」は台詞で語られるだけの異様な人物で、舞台には登場しない。この二作品をどう料理して連続上演するのか期待がふくらむ。

 紫テントの客席に座り、客層に違和感があった。比較的若い女性が圧倒的に多いのだ。そして、やっと気づいた。今回出演する安田章大は、一昨年のシアターミラノ座公演『少女都市からの呼び声』に出ていた元アイドルで、あのときも女性客が多かった。シアターミラノ座から花園神社のテントへの進出かと得心した。

 安田章大は二作品の主役を演じている。のびのびとした好演が、二つの作品に連続性を生み出す役割を果たしている。金守珍は二作品を一つの世界にまとめようとしているのだと思う。『アリババ』『愛の乞食』という上演順が、全体が一つの芝居の雰囲気を作り出している。

 戯曲は細かいところでいろいろ現代風に改変しているようだ。どうせなら、より大胆に二つの芝居が相互侵入するように書き替えて『アリババ+愛の乞食』という一つの芝居に仕立ててもいいのでは、という気もした。

 『愛の乞食』にはジョンシルバーの歌が出て来る。

 七十五人で船出をしたが
 帰ってきたのはただ一人
 よいこらさあ よいこらさあ

 この曲が流れるとき、突如、唐十郎の力強い歌声が流れ、それに役者たちの合唱が続いた。オールドファンにとっては涙が出そうになる演出(サービス)だ。

 どうせなら「アリババの歌」が流れるとき、あの『新宿泥棒日記』の映像と歌声も流してほしいと思った。

 『愛の乞食』のラストは恒例の屋台崩しで、海賊船が花園神社の闇の向こうの明治通り目指して出立する。心地いいカタルシスだ。このラストでいいと思う。

 もはや記憶の彼方なのでおぼろだが、初演では屋台崩しはなかった気がする。戯曲には「海賊の行進、花道をよぎる。海のざわめきで、もう、世界はひとたまりもない。」とある。すごいト書きだ。

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