フランスの女流作家ユルスナールの三島由紀夫論を読んだ2021年02月16日

『三島由紀夫あるいは空虚のヴィジョン』(マルグリッド・ユルスナール/澁澤龍彦訳/河出文庫)
 村松剛の『三島由紀夫の世界』でフランスの高名な女流作家ユルスナールが三島由紀夫を論じた本があると知り、ネット検索して古書で入手し、読んでみた。

 『三島由紀夫あるいは空虚のヴィジョン』(マルグリッド・ユルスナール/澁澤龍彦訳/河出文庫)

 160頁ほどの薄い文庫本なので一気に読めた。原著は三島没後10年の1980年刊行、翻訳が出たのが1982年、河出文庫になったのが1995年である。ユルスナールは三島由紀夫の母親にあたる世代で、本書刊行時は77歳、1987年に84歳で亡くなっている。

 私が本書を読みたいと思ったのは、5年前にに読んだ彼女の 『ハドリアヌス帝の回想』に感服し、この作家が三島をいかに描いたのか興味がわいたからだ。

 本書は、一気に読める面白さがあるものの、やや期待はずれだった。三島に関する本を何冊も読んでいる日本人にとっては目新しくない常識的な分析が多く、西洋人らしい誤解と思える部分もある。

 彼女は英訳と仏訳で読める三島の作品をほとんど読んでいるらしいので、私よりは多くの三島作品を読んでいると思われる。面白いのは、奥野健男が高く評価した『鏡子の家』と『美しい星』は読んでいないそうだ(訳されてないのだと思う)。

 彼女は三島作品の多くはヨーロッパ的手法で書かれているとし、『仮面の告白』にカミュの『異邦人』を重ねている。『潮騒』を「透明な傑作」として高く評価しているのが印象に残った。

 『豊穣の海』についても多くに頁を費やしているが、輪廻転生にとまどい、少々てこずっているように思える。本書のタイトルにある「空虚」は『豊穣の海』のラストに照応しているようだ。

 小説および映画の『憂国』に注目し、三島の自死とも重ねて切腹に大きな関心を示しているのは、当然だとは思うが、やはり西洋人っぽい。

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