ジャガイモ栽培で得た知見と妄想2012年08月07日

収穫したジャガイモとキュウリ
 先週、八ヶ岳山麓の山小屋のささやかな畑でジャガイモを収穫した。4月18日に種イモを植えた後は、月に1~2回しか山小屋に行っていないので、たいして世話をしたわけではないが、思いのほか立派なジャガイモが大量に収穫できた。

 野菜作りの入門書によれば、ジャガイモは難易度が最も低い野菜の一つだ。確かに簡単である。しかし、ジャガイモ作りのおかげで、このありふれた野菜に関する知見が少し深まった。

 入門書の指図通りに、何の疑いもなくホームセンターで「種イモ」を買ってきて、包丁で切って植え付けたのだが、考えてみれば、これは不思議な手順だ。一般的な野菜は、種か苗を買ってきて植える。苗には、自分でポットに種を植えて作れるものも多い。つまり、スタートは「種」である。ところが、ジャガイモは「種イモ」を植える。「種」という言葉が付いてはいるが「種イモ」はどう見ても「芽が多いだけの普通のイモ」である。「種子」とは思えない。

 漠然とそんなことを思っているとき、偶然に『ジャガイモの花と実』(板倉聖宣、仮説社)という子供向けの本を手にする機会があり、疑問が解けた。

 種イモを植える栽培法は、バラの枝を切ってさし木にするのと同様の栽培法で、種子から生育させるのではなく、植物を「再生」させているそうだ。トカゲだってシッポを再生できるが、植物には強い再生力があるので、このような栽培方法が可能なのだ。つまり、ジャガイモの栽培とは、種イモのクローンを作る作業だったのだ。これは、私にとっては新鮮な驚きだった。

 クローンを作っている限り、種イモと同じものが再生できるだけで品種改良などはできない。品種改良をするには種子から栽培する必要がある。本来、ジャガイモには花が咲き実が成り、実から種子が取れるそうだ。しかし、われわれが栽培している多くのジャガイモには花は咲くが実が成ることはほとんどない。そういう品種のジャガイモを再生しているということであり、それが食糧としての生産性がいいということなのだろう。

 実が成らない植物をクローンによって大量に再生する……こんな育成法を人間社会に適用するとアンチ・ユートピアSFの世界の姿が浮かんでくる。たかがジャガイモの収穫で、そんな妄想が生まれるのも野菜作りのご利益のひとつかもしれない。

 ジャガイモがナスやトマトと同じナス科であることも、今回初めて知った。まだ見たことはないが、ジャガイモの実はトマトに似ているそうだ。