『物語としての旧約聖書』の読み解きが興味深い2024年03月02日

『物語としての旧約聖書:人類史に何をもたらしたか』(月本昭男/NHKブックス)
 『ビジュアル版 聖書物語』に続いて次の関連書を読んだ。今年1月に出た新刊である。

 『物語としての旧約聖書:人類史に何をもたらしたか』(月本昭男/NHKブックス)

 私には本書はやや専門的に感じられた。読者が旧約聖書の内容をある程度把握していることを前提にしているように思える。旧約聖書の多様な解釈にウエイトを置いた本である。私は『聖書物語』を読んだばかりだったおかげで、何とか興味深く読了できた。

 天地創造から楽園追放、ノアの洪水、アブラハム、出エジプトを経てカナン定住に至るまでの物語とその解釈が、特に面白かった。

 アブラハムが神から愛児イサクを犠牲に献げと命じられて応じる話は、普通に考えれば奇怪である。著者は、この話がどのように解釈されてきたかをいろいろ紹介している。キルケゴールの「そのような不条理を『おそれとおののき』をもって受けとめること、そこにこそ神信仰の本質がある」という見解には「へぇー」と感心した。不条理の哲学だろうか。理解できたわけではない。

 出エジプトが史実かどうかは不明だが、その後、イスラエルの民は「約束の地」カナンに定住する。「約束の地」と言ってもそこには先住者がいるのだから穏当ではない。旧約聖書の記述からは「軍事征服説」と「平和浸透説」の二つの解釈が成り立つそうだ。その他に社会学的視座から、貧農層が都市支配から「引き揚げた」という説や貧農層が「反乱」したという説もあるそうだ。

 旧約聖書にたたみこまれているもの、反映されている「何か」を読み解く話はスリリングで面白い。

 本書を読んで、私の印象に残った旧約聖書の性格は次の三点である。

 ・唯一神への信仰を強く主張している
 ・歴史観は因果応報思想である
 ・記述には矛盾も多く複眼的である

 著者が述べているように、オリエントの強大国に翻弄され続けた弱小の民が残した旧約聖書が後世のキリスト教やイスラム教を生み出すことになるのは逆説的な現象である。その不思議に感慨をおぼえざるを得ない。