古代メキシコの遺物には独特の魅力がある2023年08月04日

 東京国立博物館で開催中の『特別展古代メキシコ』を観た。マヤ文明、アステカ文明、テオティワカン文明の遺物を展示している。

 古代メキシコ文明や南米のインカ文明は、私の頭の中では世界史の一部というよりはSFの世界に近い。これらの文明については、歴史書ではなくSFや伝奇読み物で接する機会が多かったからだ。そんなイメージが大いなる偏見だとは自覚している。

 東西に広がるユーラシア大陸に発生した四つの文明(中国、インダス、メソポタミア、エジプト)は互いの交流もあったし、それを継承した後世の新たな文明・文化が思い浮かぶ。しかし、南北に広がるアメリカ大陸で発生した文明は、互いの交流はあったにせよ全体として孤立し、それを受け継いだ文明はないと思える。スペインのコンキスタドール(要は銃と病原菌)によって滅ぼされた「絶滅文明」である。

 そんな絶命文明の遺物には、ユーラシアの文明とは異質の独特の魅力がある。展示されてている土器やマスクや石像の多くは、大胆かつおおらかな造形で、ユーモラスでもある。生命力を感じる。遺物のなかには人身供犠に関連したものもあるらしい。生贄と生命力の結びつきに文明の不思議がある。

 「死のディスク石彫」は太陽の中央に舌を出した髑髏を配置した巨大な造形だ。西に沈んで東から上ってくるまでの間の「沈んだ(死んだ)太陽」の姿を表し、死と再生を暗示しているそうだ。変に理屈っぽい造形にSFを感じた。