映画『オリエント急行殺人事件』を観て数十年ぶりに原作再読 ― 2018年01月10日
公開中の映画『オリエント急行殺人事件』を観た。
原作を読んだのは数十年前だ。高名な推理小説なので犯人を知っている人も多いだろうが、私は何も知らずに読み、犯人解明のシーンで大きな衝撃を受けた。中学生の頃からシャーロック・ホームズのファンだったが、この小説によって本格ミステリーの醍醐味を知った。無垢な状態で本作の謎解きの快感を味わえたのは稀有な体験だった。
映画『オリエント急行殺人事件』を観ようと思ったのは、イスタンブールからフランスのカレーに向かう列車の旅への憧れがあり、犯人がわかっていても謎解きの面白さを十分に味わえると思ったからだ。
映画は私の期待に応える映像だった。驀進する列車は迫力があるし、列車の内部の雰囲気もいい。いつの日かこんな列車の旅をしてみたいと夢想する。原作では積雪で停車する列車が映画では脱線してしまうのには驚いた。
映画向けに脚色していると思われるシーンもあったが、おおむね原作に忠実な内容だと思え、十分に楽しめた。ただし、終盤のポアロの印象が重すぎて多少の違和感があった。原作はもっと軽い感じだったと思えた。
そんな気分から、映画を観た後に原作を再読した。数十年ぶりのミステリー再読は、ある意味では贅沢な至福の時間だ。犯人を推測する必要がないので、物語の細部への関心がわいてくる。地図帳で登場する地名を確認しながら読み進めた。
映画の冒頭シーンはエルサレムで、ポワロはそこからオリエント急行起点のイスタンブールまで船旅をする。原作では、冒頭はトルコのアッポレだった。ポワロはそこからイスタンブールまで列車の長旅をしている。オリエント急行に乗る前に、すでにポワロは列車の長旅に倦んでいたと思えるのは再読での再発見だった。
再読では、オリエント急行が雪で停車した場所への関心もわいた。原作ではユーゴスラビアとなっていて、現在のクロアチアだ。今はなき国名に接し、時代背景も気になった。明示はされていないが、小説発表当時の同時代、第一次大戦と第二次大戦の間の時代のようだ。興味深い時代だと感じたのは再読の成果だ。
そして、この物語の終盤における原作のポアロは映画ほど重くないと確認できた。映画のポワロは殺されたジョニー・ディップへの配慮があったのだろうか。原作のポワロの方が映画より早い時点で事件の全貌を見抜いているようにも思える。ポワロ像は映画より原作の方がいいと私は思う。
また、原作では「一人の女優」の印象が強く、そこに面白さがあるのに、映画ではさほどではない。これは名優たちを集めた映画の宿命で、あえて「一人の女優」をフレームアップするのが難しかったのかもしれない。
名優を集めるのに適した『オリエント急行殺人事件』でも、名優すべてを活かして映画を面白くするのは難しい。
原作を読んだのは数十年前だ。高名な推理小説なので犯人を知っている人も多いだろうが、私は何も知らずに読み、犯人解明のシーンで大きな衝撃を受けた。中学生の頃からシャーロック・ホームズのファンだったが、この小説によって本格ミステリーの醍醐味を知った。無垢な状態で本作の謎解きの快感を味わえたのは稀有な体験だった。
映画『オリエント急行殺人事件』を観ようと思ったのは、イスタンブールからフランスのカレーに向かう列車の旅への憧れがあり、犯人がわかっていても謎解きの面白さを十分に味わえると思ったからだ。
映画は私の期待に応える映像だった。驀進する列車は迫力があるし、列車の内部の雰囲気もいい。いつの日かこんな列車の旅をしてみたいと夢想する。原作では積雪で停車する列車が映画では脱線してしまうのには驚いた。
映画向けに脚色していると思われるシーンもあったが、おおむね原作に忠実な内容だと思え、十分に楽しめた。ただし、終盤のポアロの印象が重すぎて多少の違和感があった。原作はもっと軽い感じだったと思えた。
そんな気分から、映画を観た後に原作を再読した。数十年ぶりのミステリー再読は、ある意味では贅沢な至福の時間だ。犯人を推測する必要がないので、物語の細部への関心がわいてくる。地図帳で登場する地名を確認しながら読み進めた。
映画の冒頭シーンはエルサレムで、ポワロはそこからオリエント急行起点のイスタンブールまで船旅をする。原作では、冒頭はトルコのアッポレだった。ポワロはそこからイスタンブールまで列車の長旅をしている。オリエント急行に乗る前に、すでにポワロは列車の長旅に倦んでいたと思えるのは再読での再発見だった。
再読では、オリエント急行が雪で停車した場所への関心もわいた。原作ではユーゴスラビアとなっていて、現在のクロアチアだ。今はなき国名に接し、時代背景も気になった。明示はされていないが、小説発表当時の同時代、第一次大戦と第二次大戦の間の時代のようだ。興味深い時代だと感じたのは再読の成果だ。
そして、この物語の終盤における原作のポアロは映画ほど重くないと確認できた。映画のポワロは殺されたジョニー・ディップへの配慮があったのだろうか。原作のポワロの方が映画より早い時点で事件の全貌を見抜いているようにも思える。ポワロ像は映画より原作の方がいいと私は思う。
また、原作では「一人の女優」の印象が強く、そこに面白さがあるのに、映画ではさほどではない。これは名優たちを集めた映画の宿命で、あえて「一人の女優」をフレームアップするのが難しかったのかもしれない。
名優を集めるのに適した『オリエント急行殺人事件』でも、名優すべてを活かして映画を面白くするのは難しい。
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