『デフレの正体』で、わが事の「高齢化社会」を考えた2011年01月23日

『デフレの正体』(藻谷浩介/角川ONEテーマ21)
 『デフレの正体』(藻谷浩介/角川ONEテーマ21)という新書本が売れていると新聞に載っていた。書店に行くと、新書本の棚の前にうず高く平積みになっていた。オビには25万部突破とある。つい手に取り、買ってしまった。

 読んでみて、売れる理由がわかる気がした。講演調のやや攻撃的な語り口は読みやすい。データを提示しながらの説明は具体的で分かりやすい。そして、推理小説のように「意外な事実の提示」や「謎解き」によってストーリーが展開し、後半には、わが国が採るべき施策の提言もある。

 そんな本書は、サブタイトル(経済は「人口の波」で動く)と目次を眺めるだけでおよその内容がつかめるようになっている。そこが推理小説とは異なる。親切な作り方と言える。以下に、目次のタイトルを抜粋してみる。

 第2講 国際経済競争の勝者・日本
 第3講 国際競争とは無関係に進む内需の不振
 第5講 地方も大都市も等しく襲う「現役世代の減少」と「高齢者の激増」
 第7講 「人口減少は生産性上昇で補える」という思い込みが対処を遅らせる
 第9講 ではどうすればいいのか①高齢富裕層から若者への所得移転を
 第10講 ではどうすればいいのか②女性の就労と経営参加を当たり前に
 第11講 ではどうすればいいのか②労働者ではなく外国人観光客・短期定住者の受入を

 この目次から推測できるように、本書では、日本経済の大問題の要因を高齢化の進行ととらえている。そして、モノが売れないのは、購買意欲のある現役世代の人口が減少し、購買意欲のない高齢者の人口が増えているからだと説明する。対処方法としては、上記目次の第9講、第10講、第11講の内容が提言されている。

 私は、著者のこのような考えには概ね納得できた。と言うか、本書の語り口は攻撃的で刺激的だが、その内容の骨子は常識的なものに思える。しかし、著者の主張によれば、多くの経済学者たちは経済の要因としての人口構成問題を軽視しているという。それは本当なのだろうか。
 すでに20年以上前から「やがて労働人口が増え続ける時代が終わり、高齢化社会を迎えることになる。その準備をしなけばならない」と言われ続けてきたように思う。目新しい視点でないのにベストセラーになるのは、だれもが直視してこなかったからだろうか。
 
 著者は経済学者でもエコノミストでもない。肩書は日本政策投資銀行参事役で、「あとがき」には「私の本業は、市街地活性化や観光振興、企業経営など、地域振興に関する具体的な分野で、具体的な地域や企業の方を相手に講演やアドバイスをして歩くことです」とある。
 そのような体験をふまえた語り口が本書の独特な魅力になっているようだ。理論から入るのではなく、現場の実情を積み上げて論理を構築しようとしている。演繹ではなく帰納だ。
 そのような論旨展開を読んでいて、かつて『路地裏の経済学』『感覚的日本経済論』『柔構造の日本経済』など現場重視の著作で一世を風靡したエコノミスト・竹内宏氏を思い起こした。

 ネットで検索してみると、当然のことながら『デフレの正体』には賛否両論あり、著者がマクロ経済学を理解していないという批判もあった。購買意欲のない高齢者の人口増は個別商品の値崩れを起こすだけであり、それはデフレとは別だという主張もあった。そうかもしれない。

 そもそも、経済学は正解がありそうで、なかなか正解をつかむことができないナマコのような学問である。竹内宏氏は「現実の経済は生き物であって、経済学で解明しきれるものでない」「理屈と膏薬はどこにでもつく。どのような経済現象でも自由自在に理屈づけられ、まったく正反対の結論さえ、いとも容易に導き出せる」などと書いていた。

 「デフレとは何か? デフレの正体は何か?」を追求することはどうでもいい問題であり、20年以上前からわかっていながら、未だに準備不足状況の高齢化社会への対応について具体的な施策を実施することが大事なのだと思う。高齢化社会を招く「犯人」である団塊世代の一人として、本書によってその認識を新たにした。

コメント

_ 夕暮れの富士 ― 2011年02月26日 14時54分

菅原晃さんって、外貨準備の為替差損は負担じゃない、みたいな面白いこと言う人ですか?

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