芝居らしい芝居『華岡青洲の妻』を新橋演舞場で観た2025年08月11日

 新橋演舞場で『華岡青洲の妻』(作:有吉佐和子、演出:齋藤雅文、出演:大竹しのぶ、波乃久理子、田中哲司、他)を観た。

 有吉佐和子の『華岡青洲の妻』の刊行は1967年1月、58年も前だ。当時、話題のベストセラーで、私はこの小説をリアルタイムで読んでいる。江戸時代の外科医・華岡青洲が全身麻酔の技術を開発したとき、妻と母親が競って人体実験になるという大筋を憶えているだけで、詳細は忘れている。

 この本は母が買ったのを読んだのだと思う。1967年1月は私が高校を卒業する直前の大学受験の頃である。読んだのは浪人生活に入ってからかもしれない。私が読んだ有吉佐和子の小説はこれ1冊だけである。

 遠い記憶のかなたに霞んでいる話が大竹しのぶ主演で舞台になっていると知り、新橋演舞場に足を運んだ。予想通り新派風の芝居だった。と言っても、私は新派を劇場で観たことがないので、無責任で身勝手な印象である。名優たちの芝居らしい芝居を堪能した。

 うかつにも今まで知らなかったが、『華岡青洲の妻』は小説が出た年(1967年)の秋には有吉佐和子自身による脚本・演出で舞台化され(出演は司葉子、山田五十鈴、田村高廣、他)、その後、さまざまな役者によって繰り返し上演されてきたそうだ。定番の芝居なのだ。

 今回の観劇の帰途、久々に新宿の紀伊國屋書店に寄ってウロウロしていたら、驚いたことに新たな『華岡青洲の妻』のチラシを見つけた。10月下旬から紀伊國屋サザンシアターで文学座がこの芝居を上演(演出:鵜山仁)するそうだ。あらためて調べると、この芝居は文学座も繰り返し上演しており、杉村春子が演ずる青洲の母が名演だったそうだ。

 この芝居は嫁と姑の葛藤の話であり、そこにひとつの普遍性があるのかもしれない。だが、通常の葛藤を超えた凄さと昇華もあり、それゆえに芝居が成り立っているのだと思う。