何事も起こらない老人芝居『八月の鯨』 ― 2025年02月12日
紀伊國屋サザンシアターで劇団民藝公演『八月の鯨』(作:デイヴィッド・ベリー、訳・演出:丹野郁弓、出演:樫山文枝、日色ともゑ、他)を観た。
半世紀以上昔の学生時代、劇団民藝の舞台を二つ観た。それ以降の長い間、この老舗劇団の芝居は私の関心外だった。だが昨年、数十年ぶりに『オットーと呼ばれる日本人』を観たのに続いて、今年もまた劇団民藝の舞台を観ることになった。われながら意外である。きっかけは、先月の「渡辺えり古稀記念2作連続公演」で観た『鯨よ!私の手に乗れ』である。渡辺えりがパンフレットに次のように書いていた。
「母のことを書こうと思った頃に劇団民藝の『八月の鯨』を観た。高齢の姉妹が鯨の訪れを待ち、恋にあこがれる姿がチャーミングで残酷で美しかった。」
渡辺えりが観たのは12年前(2013年)の民藝公演である。この文章を読んだのとほとんど同時に『八月の鯨』の12年ぶりの再演を知った。これも何かの縁だと思ってチケットを入手した。『鯨よ!私の手に乗れ』は、渡辺えりの家族物語を軸に母の歴史と幻想世界が交錯する不思議な舞台だった。あの「アングラ劇」に「新劇」がどのように反映しているかを確認したくなったのだ。『鯨よ!私の手に乗れ』は『欲望という名の電車』のシーンも取り入れていた。
米国の劇作家デイヴィッド・ベリーの『八月の鯨』は1987年に映画にもなり、大ヒットしたそうだ。避暑地の島の別荘で夏を過ごす老姉妹の話である。気位の高い姉は86歳、その世話をする妹は75歳。時は1954年8月。この姉妹の生活に、知人女性、老いた修理工、自称元ロシア貴族などが絡んでくる。
姉を演じるのは樫山文枝、妹を演じるのは日色ともゑである。私のような団塊世代にとって、この二人は朝の連続テレビ小説の若いヒロインのイメージが強い。だが、二人とも現在83歳、この芝居の姉妹を演じるのにふさわしい。
この芝居に大きな事件や意表を突く展開はない。ささやかな波風が立つ出来事が時おり発生するだけの世界である。表面的には穏やかな日常生活が進行していく。
かつて、8月になるとこの別荘から鯨を見ることができた。鯨が来なくなって久しい。だが、二人は鯨が来るのを待っている…。チエホフの世界を彷彿とさせる芝居だった。
半世紀以上昔の学生時代、劇団民藝の舞台を二つ観た。それ以降の長い間、この老舗劇団の芝居は私の関心外だった。だが昨年、数十年ぶりに『オットーと呼ばれる日本人』を観たのに続いて、今年もまた劇団民藝の舞台を観ることになった。われながら意外である。きっかけは、先月の「渡辺えり古稀記念2作連続公演」で観た『鯨よ!私の手に乗れ』である。渡辺えりがパンフレットに次のように書いていた。
「母のことを書こうと思った頃に劇団民藝の『八月の鯨』を観た。高齢の姉妹が鯨の訪れを待ち、恋にあこがれる姿がチャーミングで残酷で美しかった。」
渡辺えりが観たのは12年前(2013年)の民藝公演である。この文章を読んだのとほとんど同時に『八月の鯨』の12年ぶりの再演を知った。これも何かの縁だと思ってチケットを入手した。『鯨よ!私の手に乗れ』は、渡辺えりの家族物語を軸に母の歴史と幻想世界が交錯する不思議な舞台だった。あの「アングラ劇」に「新劇」がどのように反映しているかを確認したくなったのだ。『鯨よ!私の手に乗れ』は『欲望という名の電車』のシーンも取り入れていた。
米国の劇作家デイヴィッド・ベリーの『八月の鯨』は1987年に映画にもなり、大ヒットしたそうだ。避暑地の島の別荘で夏を過ごす老姉妹の話である。気位の高い姉は86歳、その世話をする妹は75歳。時は1954年8月。この姉妹の生活に、知人女性、老いた修理工、自称元ロシア貴族などが絡んでくる。
姉を演じるのは樫山文枝、妹を演じるのは日色ともゑである。私のような団塊世代にとって、この二人は朝の連続テレビ小説の若いヒロインのイメージが強い。だが、二人とも現在83歳、この芝居の姉妹を演じるのにふさわしい。
この芝居に大きな事件や意表を突く展開はない。ささやかな波風が立つ出来事が時おり発生するだけの世界である。表面的には穏やかな日常生活が進行していく。
かつて、8月になるとこの別荘から鯨を見ることができた。鯨が来なくなって久しい。だが、二人は鯨が来るのを待っている…。チエホフの世界を彷彿とさせる芝居だった。
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