ナポリは妖しい魅力の都市のようだ2024年08月06日

『ナポリ:バロック都市の興亡』(田之倉稔/ちくま新書)
 ナポリという都市の歴史の概説書と思って、次の本を入手して読んだ。
 
 『ナポリ:バロック都市の興亡』(田之倉稔/ちくま新書)

 私が想定した概説書とは少し異なり、かなりマニアックな内容だった。著者は演劇評論家&大学教授である。冒頭から「プルチネッラ」というナポリの道化の話が続き、少々面くらった。だが、読み進めるにしたがって著者の世界に引き込まれ、面白く読了した。

 本書は18~19世紀のナポリを芸能・演劇という視点で描いている。ナポリという都市は、そんな視点でなければ捉えられない不思議な都市のようだ。本書の各章のタイトルは以下の通りである。

 第1章「迷宮都市」――プルチネッラの生きる街
 第2章「ピカレスク都市」――悪魔の住む天国
 第3章「芸能都市」―ベル・エポックの面影
 第4章「祝祭都市」――生と死の交錯
 第5章「オペラ都市」――サブ・カルチャーとしてのバロック精神
 第6章「歌謡都市」――羽ばたいた民衆エネルギー

 目次を一覧すれば、この都市の雰囲気が何となく浮かび上がってくる。私はオペラにもカンツォーネにも不案内である。だが本書によって、きらびやかで猥雑な未知の世界を垣間見た気分になった。ナポリを訪問したゲーテ、デュマ、スタンダールらの見聞記の紹介もあり、往時のナポリの姿を身近に感じた。

 「カストラータ」なる存在を本書で初めて知った。カストラータとは去勢した男性ソプラノ歌手のことである。天使のような清澄な声が人々を魅了し、教会の聖歌隊やオペラ座に多くのカストラータがいたそうだ。著者は次のように述べている。

 「ルネサンス文化が自然や調和を重んじたとすれば、バロック文化は人工性やデフォルメされた美を偏愛した。とするとカストラータ歌手はまさにバロック精神を実現したものなのである。バロック都市ナポリ、音楽都市ナポリでカストラータが育てられたのは、したがって必然性があった。」

 宦官は、中国・ビザンツ・イスラム諸国などにいたが、西欧世界は宦官を忌避していたと聞いていた。カストラータの存在を知ったのは、私には新鮮な驚きだった。

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