別役実とつかこうへいを繋ぐ『象』を観た2024年05月20日

 上野ストアハウスという小さな劇場で9PROJECT公演『象』(作:別役実、演出:渡辺和徳、出演:小川智之、井上裕朗、高野愛、浦島三太朗、瑠音)を観た。

 別役実の初期有名作品『象』は戯曲を読んだはずだが舞台を観ていない。半世紀以上昔の学生時代、別役実は気がかりな劇作家だったが、舞台は観ていない。その心残りのせいか、今頃になって、別役作品の上演があれば、観たくなるのだ。

 「9PROJECT」という演劇ユニーットを今回初めて知った。「北区つかこうへい劇団」出身者が、つかこうへい作品を上演するために立ち上げたそうだ。その9PROJECTがなぜ別役実の作品を上演するのか。つかこうへいが別役実の『象』にインスパイアされていたからである。チラシにはつかこうへいの次の言葉を掲載している。

 「別役実さんは、私の最も尊敬する人である。(中略)『初級化革命講座飛龍伝』は、『象』の盗作だし、他にも『郵便屋さんちょっと』など盗作ばかりである。」

 私は別役実やつかこうへいの芝居もさほど観ていないし、つかこうへいの戯曲はほとんど読んでいない。そんな乏しい経験で語るのは気が引けるが、別役実とつかこうへいの繋がりを感じたことはなかった。『飛龍伝』の舞台は観ているが、別役実を連想することはなかった。

 しかし、今回の『象』を観て、これは確かにつかこうへいに通じる舞台だと思った。少しアレンジすれば、つかこうへい作品としてもおかしくないかもしれない。いままでの私の読みの浅さを知った。

 『象』は別役実作品には珍しく「被爆者」「原水爆禁止大会」など具体名が出てくる。もちろんリアリズムの芝居ではなく、不思議な空間の不条理劇である。背中のケロイドを見世物にして喝采を浴びることにこだわる主人公は、つかこうへい的だ。だが、静謐で沈鬱な空気が流れている。

 『象』の初演は、別役実25歳のときの1962年である(自由舞台=後の早稲田小劇場で上演)。つかこうへいは14歳の中学生だった。私はつかこうへいと同い年だが、別役実の名を知ったのは大学時代の1970年頃だと思う。

 私より11歳年長の別役実は60年安保世代である。政治の季節が終わったであろう1962年発表『象』の舞台を観て、「終わった」という当時の空気が色濃く刻印されているように感じた。

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