『草原とオアシス』(山田信夫)で中央ユーラシア史のややこしさ再認識2020年08月25日

『草原とオアシス(ビジュアル版世界の歴史10)』(山田信夫/講談社)
『ウイグル人』(トルグン・アルマス)を読んだのがきっかけで中央アジア史・中央ユーラシア史の概説書を2冊読んだ。この際、未読で積んである関連本をかたづけようという気分になり、まず次の本を読んだ。

 『草原とオアシス(ビジュアル版世界の歴史10)』(山田信夫/講談社)

 先日読んだ『宋と中央ユーラシア(世界の歴史7)』で梅村坦氏は、本書の著者・山田信夫氏の天山ウイグル国に関する興味深い文書研究(仏教僧侶養子)を紹介していた。

 本書は中央ユーラシアの草原地域とオアシス地域の歴史を、匈奴・スキタイが活躍する紀元前の時代から清とロシアが進出してくる19世紀まで概説している。1985年刊行なので、中央アジアの国々がソ連の一部だった時代の本である。

 「ビジュアル版世界の歴史」という叢書は、全ページの半分以上が写真、地図、図表などで、本文は各ページの半分以下である。本文の量が少ないので短時間で読めそうに思えるが、そうでもない。写真や図表の説明文をきちんと読んでいくと、意外に時間がかかる。これらは必ずしも本文に連動した挿絵や註釈ではなく、独立したコラムに近い。本文で触れていない踏み込んだ話題も多い。不明な事項を用語集などで確認して咀嚼しようとすると時間を要するのである。

 私の頭の中にある中央ユーラシア史の知識を整理するつもりで読み始めたが、新たな知見が多く、大いに勉強になった。わが頭に残っているものの少なさを確認したということでもある。

 この地域の人々は、氏族や部族などの人間集団を形成し、それが連合したり支配したり支配されたりしながら、あちらこちらに移動する。地名と部族名と国名の関係がゴチャゴチャになりやすい。人間集団を整理して考えるには〇〇系(トルコ系、モンゴル系、チベット系、イラン系…)、〇〇部族、〇〇人、〇〇国などの関係を把握しなければならないが、それが容易でない――本書を読んで、それをあらためて認識した。本書の説明が丁寧だからである。

 それにしても、広大な地域の地図が時間軸で多様に変化するさまを把握するには、頭の中に3次元の地図年表を構成する必要がある。この地域の部族や国は単に移動するだけでなく、分離や連合をくり返し、重なり合う(支配・被支配、同化・混合など)ことも多い。呼び名も他称・自称・総称などが複合するのでややこしい。整理して理解するのは容易ではない。

 本書の用語はやや特殊に思えた。中国人はテュルクを突厥と書いたと指摘したうえで、552年(現在のトルコ共和国が民族上の建国の年とした年)創建の突厥をテュルク国と表記し、その後の分裂でできた西突厥はオンオクと表記している。南突厥は南突厥である。中国との距離感での使い分けだろうか。

 一般にウイグル国と呼ばれている国はトクズオグズ国(トクズは九)と呼んでいる。トルコ系の部族連合の国で、ウイグルはその中の一部族なので、あえてトクズオグズ国と呼んでいるようだ。

 と言って、ウイグル族を軽視しているのではない。甘州ウイグル王国の子孫たちは元、明の時代にも少数民族として存在したと指摘しているし、天山ウイグル王国はカルル国、カラハンを経て現代につながっているとし、次のように述べ江いる。

 「元朝の支配下に置かれてからも、この国を形成したトルコ系民族は畏吾児すなわちウイグルの名のもとで先進文明国人として活躍していた。そしてその後も民族として衰えることはなく、それが現在のウイグル人につながっていることは、いうまでもない。」

 現代のウイグル人と古代ウイグルに断絶があるという見方ではない。

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