ウナギの謎から学術研究の世界のワクワクドキドキをうかがう2012年07月17日

『ウナギ 大回遊の謎』(塚本勝巳/PHPサイエンス・ワールド新書)
 長年謎とされていたニホンウナギの産卵場がグァム沖であることが判明した、というニュースが新聞やテレビで大きく取り上げられたのは2006年2月だった。そのニュースに接するまで、私はウナギの産卵場にかんする謎や「世界的ウナギ博士」塚本勝巳教授のことは知らなかった。
 あのニュース以来、ウナギの生態に興味をもった。ウナギはおいしいだけでなく、なかなかに謎の多い生物のようなのだ。

 ウナギの産卵場発見のニュースから6年経って、塚本勝巳教授による一般向けの解説本が出た。
 本書を読んで、あらためて2006年に報じられた発見の意味がわかり、それ以降の研究の進展状況を知った。また、学術研究の世界の面白さの一端をうかがうことができた。

 本書はウナギに関する解説書であると同時に、私と同世代の塚本教授の修業時代から現在に至る研究生活の報告書でもある。私には縁のない学術研究の世界の話ではあるが、私たちが生きてきたあれこれの時代に、このような研究に打ち込んでいた人物もいたのかと、手前勝手に心強く思った。

 ウナギの世界には、宇宙や素粒子の謎とはまた別種のさまざまな不思議があり、その謎を解明するためにさまざまな新しい研究手法が開発されている。そんなことを知って、世の中に謎解きのネタが尽きることはなく、われわれの前には解明されることを待っている謎がいくらでもあるのだと認識した。
 この世のいたるところにフロンティアがあると感じると、いささかの閉そく感が蔓延しているようにも見える世界が別の様相を呈してくる。見えている人々にとっては、世界はワクワクとドキドキに包まれているのだ。