『サボテンの微笑み』の屋敷は小さな異空間2026年04月05日

 シアタートラムでケムリ研究室公演『サボテンの微笑み』(作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ、出演:緒川たまき、瀬戸康史、瀬戸さおり、清水伸、赤堀雅秋、萩原聖人、鈴木慶一)を観た。

 チラシには「ナイーブな人たちの小さな物語」とある。A4判4ページのチラシだが、それ以外の文章はなく、見開きはイメージ写真だけだ。チラシ作成時点で戯曲は未完成だったので、それ以上のことは書けなかったのだと思う。

 観劇後、あらためてチラシの見開き写真を眺めた。実際の舞台とチラシの写真は微妙に雰囲気が異なる。舞台はチラシほどホノボノしていない。

 昭和初期の東京郊外の洋館に住む兄と妹の話である。広い客間が舞台だ。客間後方の大きなガラス戸の向こうの庭には巨大な温室がある。中央のテーブルの回りに椅子が4脚、客席から見ると手前の1脚は後向きになる。変な配列だと思ったが、そこに仕掛けがあった。

 兄弟は親が残した遺産で不自由なく静かに暮らしている。二人ともやや引っ込み思案の独身である。温室で花を育てている兄の綽名はサボテンだ。兄は妹に早く嫁いでほしいと思っている。妹は兄に嫁が来てほしいと願っている――そんな設定だ。

 この芝居、「静→動→静」と展開する。二人の静かな生活が動に転ずるのは、旧友たちの来訪に伴う一連の騒動によって兄も妹も伴侶を求めるようになるからである。だが、結局は二人の静かな生活に戻る。

 テーブルがある舞台中央は回転舞台になっている。回転部分に立っている人物とその外の人物の会話は、会話の流れに沿うように遠ざかったたり近づいたりする。面白い仕掛けだ。

 緒川たまきが演じる妹は、竹久夢二の絵の女性のような儚い風情を醸し出している。それをやや過剰にコミカルに表現しているのが面白く、また不気味でもある。温室で育てた花を愛でる兄もどこか不気味だ。

 二人の住む昭和初期の洋館は世の中から隔絶した空間であり、それは時代をも超えた異次元空間にも感じられる。手回し蓄音機から流れるレコードの音楽も現実世界から遊離している。

 諦めに似た異次元的な小さな自足の世界は現代の何を反映しているのだろうか。