ノーベル文学賞の『菜食主義者』に慄然とした2024年11月17日

『菜食主義者』(ハン・ガン/きむ ふな訳/クオン)
 今年のノーベル文学賞を受賞したハン・ガンの小説を読んだ。

 『菜食主義者』(ハン・ガン/きむ ふな訳/クオン)

 ノーベル文学賞のニュースに接するまで、この作家の名も作品名も知らなかった。本書は13年前に「新しい韓国の文学」というシリーズの第1作目として翻訳出版されている。慧眼の士にはよく知られた作家だったようだ。

 私の場合は典型的な付和雷同読書である。書店に平積みされた本書をパラパラとめくり、読みやすそうな小説だなと思い、発作的に購入した。韓国の小説家の作品を読むのは初めてだと思う。

 確かに読みやすい。しかし、わかりやすくはない。読み始めると不可思議な作品世界に引き込まれ、一気に読了した。

 この小説は「菜食主義者」「蒙古斑」「木の花火」という三作品から成る連作長編である。三編の話はつながっていて登場人物も共通だが、叙述の視点が変化する。それぞれが慄然たる余韻で終わる中編小説である。そして、全体で一つの長編になっている。

 突然、一人の女性が菜食主義者になり、ついには自分を樹木と思い込んでいく話である。その女性の夫の視点で始まり、姉の夫の視点、姉の視点へと展開しながら事態は拡大していく。現代韓国の家族をめぐる話であり、物語の背景に韓流ドラマ世界の雰囲気をチラリと感じたりもする。もちろんエンタメではない。日常の深奥に潜んでいる非日常的な悲しみや美意識が浮かびあがってくる。現代的な小難しい思索や技巧を超えた強靭さを感じさせる小説である。

 『菜食主義者』は、この世の生きにくさを表現した小説だと思う。小説家は炭鉱のカナリアにたとえられことがある。この小説は、21世紀世界がはらむ病理を予告・反映してるのかもしれない。

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