カラマーゾフがベースの『正三角関係』は狂騒的黙示録芝居 ― 2024年07月23日
東京芸術劇場プレイハウスでNODA・MAP公演『正三角関係』(作・演出:野田秀樹、出演:松本潤、長澤まさみ、永山瑛太、村岡希美、池谷のぶえ、小松和重、野田秀樹、竹中直人、他)を観た。ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』をベースにした芝居である。私は観劇前に一大決心をして、この長編小説を何とか再々読した。
チラシには「日本のとある場所のとある時代の花火師の家族、つまり『唐松族の兄弟』の物語」とある。
【以下、ネタバレがあります】
この芝居、私が想定した以上に『カラマーゾフの兄弟』に重なっていた。あの長大な小説の観念奔流世界を舞台化するのは難しいとしても、ストーリーの骨子や印象的なエピソードを多く取り込んでいる。モスクワから来た弁護士は東京から来た弁護士、駆け落ちした母の行先はペテルブルクでなく旧軽井沢だ。
舞台の枠組みは法廷劇、場所は長崎、時代は太平洋戦争末期である。被告席に立つのは父親殺し容疑で告発された長男だ。検事(竹中直人)と弁護人(野田秀樹)がわたり合う法廷は、そのまま演劇になる。と言ってもリアリズム劇ではない。法廷シーンに様々な異様な情景が重なっていく。
殺された父親(竹中直人)と長男(松本潤)は花火師である。次男(永山瑛太)は物理学徒で原爆の開発に従事している。聖職者に見える三男(長澤まさみ)は浦上天主堂の料理人である。カテリーナやグルーシェニカも日本人に置き換えているが、グルーシェニカ(長澤まさみ)の名は原作のままである。花街の女の源氏名がグルーシェニカという設定なのだ。
登場するのは日本人だけでない。原作ではポーランド人だったグルーシェニカの元恋人は領事館(ソ連?)のロシア人になっている。原作のホフラーコワ夫人を彷彿させるウワサスキー夫人(池谷のぶえ)は領事夫人のロシア人という設定だ。このウワサスキー夫人が滅法面白い。
戦争末期のこの時期、花火師に仕事はない。火薬はすべて軍に供出されている。貴重品の火薬は利権絡みの品物でもある。原爆開発に従事している次男は、原爆起爆のために花火師・長男の技術を必要としている。この極秘開発はロシア(ソ連?)と共同で進めているが、すでにロシア(ソ連?)は日本への宣戦布告を準備している。そんな奇天烈な物語を『カラマーゾフの兄弟』に重ねている。この荒唐無稽が秀逸だ。
原作の法廷シーンでは、検事が陪審員に向かって「ハムレットはあちらの話で、わが国では今のところまだカラマーゾフなのであります」と叫ぶ。『正三角関係』の弁護人(野田秀樹)は、陪審員が原作通りの結論を出すのを牽制して「カラーマーゾフはロシアの話です。日本は唐松族なのです」と叫ぶ。笑えた。
舞台の場所と時期があきらかになってくると、終幕は長崎への原爆投下になるだろうと予感せざるを得ない。以前に観た『パンドラの鐘』も長崎原爆だった。
長男は有罪となり極刑を言い渡される。だが、次男のはからいで岡山県の人形峠(ウラン鉱)に向かう。そして、長崎に原爆が投下される。極刑の長男だけが生き残る。狂騒的黙示録のような芝居である。
【蛇足】
先日観た『江戸時代の思い出』(作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ)には野田秀樹をいじるギャグがあった。『正三角関係』ではウワサスキー夫人の飼い猫がケラリーノ・サンドロヴィッチと名付けられていた。
チラシには「日本のとある場所のとある時代の花火師の家族、つまり『唐松族の兄弟』の物語」とある。
【以下、ネタバレがあります】
この芝居、私が想定した以上に『カラマーゾフの兄弟』に重なっていた。あの長大な小説の観念奔流世界を舞台化するのは難しいとしても、ストーリーの骨子や印象的なエピソードを多く取り込んでいる。モスクワから来た弁護士は東京から来た弁護士、駆け落ちした母の行先はペテルブルクでなく旧軽井沢だ。
舞台の枠組みは法廷劇、場所は長崎、時代は太平洋戦争末期である。被告席に立つのは父親殺し容疑で告発された長男だ。検事(竹中直人)と弁護人(野田秀樹)がわたり合う法廷は、そのまま演劇になる。と言ってもリアリズム劇ではない。法廷シーンに様々な異様な情景が重なっていく。
殺された父親(竹中直人)と長男(松本潤)は花火師である。次男(永山瑛太)は物理学徒で原爆の開発に従事している。聖職者に見える三男(長澤まさみ)は浦上天主堂の料理人である。カテリーナやグルーシェニカも日本人に置き換えているが、グルーシェニカ(長澤まさみ)の名は原作のままである。花街の女の源氏名がグルーシェニカという設定なのだ。
登場するのは日本人だけでない。原作ではポーランド人だったグルーシェニカの元恋人は領事館(ソ連?)のロシア人になっている。原作のホフラーコワ夫人を彷彿させるウワサスキー夫人(池谷のぶえ)は領事夫人のロシア人という設定だ。このウワサスキー夫人が滅法面白い。
戦争末期のこの時期、花火師に仕事はない。火薬はすべて軍に供出されている。貴重品の火薬は利権絡みの品物でもある。原爆開発に従事している次男は、原爆起爆のために花火師・長男の技術を必要としている。この極秘開発はロシア(ソ連?)と共同で進めているが、すでにロシア(ソ連?)は日本への宣戦布告を準備している。そんな奇天烈な物語を『カラマーゾフの兄弟』に重ねている。この荒唐無稽が秀逸だ。
原作の法廷シーンでは、検事が陪審員に向かって「ハムレットはあちらの話で、わが国では今のところまだカラマーゾフなのであります」と叫ぶ。『正三角関係』の弁護人(野田秀樹)は、陪審員が原作通りの結論を出すのを牽制して「カラーマーゾフはロシアの話です。日本は唐松族なのです」と叫ぶ。笑えた。
舞台の場所と時期があきらかになってくると、終幕は長崎への原爆投下になるだろうと予感せざるを得ない。以前に観た『パンドラの鐘』も長崎原爆だった。
長男は有罪となり極刑を言い渡される。だが、次男のはからいで岡山県の人形峠(ウラン鉱)に向かう。そして、長崎に原爆が投下される。極刑の長男だけが生き残る。狂騒的黙示録のような芝居である。
【蛇足】
先日観た『江戸時代の思い出』(作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ)には野田秀樹をいじるギャグがあった。『正三角関係』ではウワサスキー夫人の飼い猫がケラリーノ・サンドロヴィッチと名付けられていた。

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