別役実の『天才バカボンのパパなのだ』はブラックな不条理劇2024年07月01日

 下北沢の駅前劇場で、ぽこぽこクラブ公演『天才バカボンのパパなのだ』(作:別役実、演出:三上陽永、出演:三上陽永、杉浦一輝、渡辺芳博、新垣亘平、山崎薫、他)を観た。この劇団の芝居を観るのは初めてである。別役実が天才バカボン題材の戯曲を書いていたとは知らなかったので、どんな作品なのか興味がわき、観劇した。

 この作品の初演は46年前の1978年、文学座アトリエの会公演だったそうだ。1978年だと、まだ『天才バカボン』の連載は続いていたかもしれないと思い、調べてみると1978年で一応完結したらしい。

 芝居のチラシを見たとき、別役実と天才バカボンの取り合わせに驚いた。だが、考えてみると天才バカボンには不条理劇に通じるものがある。ナンセンスの暴走をギャグと感じていたが、あれは一種の不条理感だったかもしれない。

 この芝居、まず署長と警官が登場する。懐かしき昭和の警官の制服である。警官はデスク、椅子、電話機、書類箱などを抱えている。署長の指示で警官は電信柱の傍にデスクを置く。そこが警官の執務場所になる。バカボンが住む家の前である。別役ワールードと天才バカボンがミックスした見事な設定だ。

 机の上に電話機(昭和の黒電話)と書類箱を置き、電話をかける。配線のない電話機なのに何故かつながる。笑える場面ではあるが、現在の若い人には屋外で電話がつながるのに何の不思議も感じないかもしれないなどと考えてしまった。

 この電信柱の傍にバカボン、バカボンのパパ、バカボンのママ、レレレのおばさんなどが次々に登場し、署長や警官との絡みになり、ナンセンスで不条理な会話が繰り広げられる。赤塚不二夫の世界をより支離滅裂にした展開で、とても面白い。最後に登場人物の大半が、みんなをびっくりさせようと思って青酸カリを分け合って飲み、死んでしまう。しかし、通りがかった人は驚かない。ブラックコメディのような不条理劇だ。

 観劇帰りの電車の中で、バカボンのパパが登場するACジャパンの中吊り広告が揺れていた。バカボンのパパの寿命の長さに感心した。

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