『ナチスの戦争1918-1949』は戦後にも言及2023年07月19日

『ナチスの戦争1918-1949:民族と人種の戦い』(リチャード・ベッセル/大山顕訳	中公新書/2015/9)
 ナチス各論風の『ゲッベルス』『ヒトラー・ユーゲント』の読後イメージが消える前に、あの時代の全体像を確認しておこうと思い、未読棚の次の本を読んだ。

 『ナチスの戦争1918-1949:民族と人種の戦い』(リチャード・ベッセル/大山顕訳 中公新書/2015/9)

 著者は1948年米国生まれ(私と同じだ)の研究者、原著は2004年刊行である。ナチスの戦争は「人種主義者のユートピア」を目指していたという視点で、第一次大戦終結から第二次大戦終結までを概説している。ナチスの妄想的人種観に社会全体が引き込まれ、破局に至るまでの現代史である。

 多くの人命が失われる歴史を読んでいて、数年前に読んだスナイダーの『ブラッドランド』『ブラックアース』の衝撃的な印象がよみがえった。大木毅の『独ソ戦』のイメージも重なる。本書の記述は簡潔だが、それが意味する内容は重い。

 本書は戦争の最後の数カ月に着目している。著者は次のように述べている。

 「ナチ・ドイツは非常に驚くべきことを成し遂げた。完全な敗北である。」

 ドイツが勝つ可能性がなくなった段階でも、ヒトラーは敗戦を認めず、徹底抗戦の焦土作戦を命ずる。降伏ではなく滅亡――それが人種戦争の帰結なのだ。国民には大迷惑だが、ドイツは徹底的に破壊されて終戦を迎える。

 最後の数カ月の苛酷な戦争体験がドイツ人の被害者意識を生み、ナチスの記憶を希薄化した――著者はそう見ている。

 ナチスの戦争は1945年5月に終わるが、本書のタイトルは「1918-1949」になっている。最終章「第二次世界大戦の余波」で1945年から1949年までの戦後を描いているのだ。この部分が私には新鮮で興味深かった。

 戦後のドイツはナチスを完全に否定した。だが、記憶や体験を消すことはできない。消せなくても捏造はできる。意識的か無意識かはわからないが。

 私は1948年生まれのベビーブーマーである。戦争が終わり、大量の男が戦地から帰還して結婚し、大量の子供が生まれた。その一人が私であり、第二次世界大戦に参戦した国々に共通の事象だと思っていた。本書によって、ドイツに私と同世代のベビーブーマーがいないと知って驚いた。ドイツでは、終戦後すぐには出生数が増えていないのだ。さまざまな事情があるらしいが、世の中さまざまである。