『ローマ五賢帝』(南川高志)は目から鱗の名著2021年10月03日

『ローマ五賢帝:「輝ける世紀」の虚像と実像』(南川高志/講談社学術文庫)
 かなり以前に購入し、そのうち読もうと思っていた次の本を読んだ。

 『ローマ五賢帝:「輝ける世紀」の虚像と実像』(南川高志/講談社学術文庫)

 有益で面白い名著である。ローマ史を知るための基本図書に思える。私は10年ほど前からローマ史に関心があったが、もっと早く読んでおくべきだった。

 この著者の 『新・ローマ帝国衰亡史』は何年か前に読み、感銘を受けた。『ローマ五賢帝』は1998年に出た講談社現代新書を2014年に文庫化したものである。五賢帝時代を描いた本はたくさんあり、基本的な事柄はわかっている気になっていた。それが皮相的だったと本書で認識した。

 本書の存在を知ったのは数年前に 『歴史学ってなんだ?』(小田中直樹)を読んだときだった。歴史学者の小田中氏は歴史小説と歴史書の違いの解説で、前者の例として『ローマ人の物語』(塩野七生)、後者の例として『ローマ五賢帝』をあげ、比較検討していた。塩野氏の愛読者でもある私には興味深い内容で、後者をさっそく入手したのだが、読むのが先のばしになっていた。

 本書は著者の学位論文をベースにした啓蒙書で、研究者の検討過程が垣間見える。それは、史書や伝記だけでなく碑文などを活用したプロソポグラフィー的研究である。著者はその研究法を次のように解説している。

 《プロソポグラフィーを用いた研究法とは、生没年や出身地、家族関係や親族関係、職業や経歴、学歴、宗教などの個人情報を集め、伝記的資料の集成に基づいて、その時代の政治や社会のあり方を考察しようとするものである。》

 この方法による分析をふまえ、著者は次のように述べている。

 《結局、五賢帝時代の政治的安定の鍵として近代の研究者たちが称揚してきた「養子皇帝制」は、一度も実現したことはなかったのである。》

 私には、目から鱗の驚くべき結論だ。説得力はある。