『物理学の原理と法則』を読み、解明できない難問を再認識2021年07月19日

『物理学の原理と法則:科学の基礎から「自然の論理」へ』(池内了/講談社学術文庫)
 高校物理の復習をする気分で次の本を読んだ。

 『物理学の原理と法則:科学の基礎から「自然の論理」へ』(池内了/講談社学術文庫)

 70歳を過ぎて勉強し直そうという殊勝な心境になったわけではない。毎日の暑さでぼんやりしている頭が多少でもシャンとすれば、という気まぐれで本書に手がのびた。

 冒頭で物理学における「原理」「法則」「定理」などの意味を解説していて、大人向け教科書の趣である。続いて、科学史の話題をふまえながら主に力学の原理や法則の説明になり、高校物理の復習気分で頭の体操になった。

 話題は高校物理の範囲を超えて特殊相対性理論、一般相対性理論、量子論にまで広がり、ボーズ粒子やフェルミ粒子のスピンの話まで出てくる。著者は宇宙物理学者なので、当然ながら宇宙論やダークマター、ダークエネルギーにまで話題は及ぶ。

 と言っても、本書は現代物理学の概説書ではなく、物理学の「考え方」を追究している。最終章のタイトルは「自然の論理と人間の思考」となっていて、「自然の論理によって生み出されたもの」と「自然に対峙する人間の思考によって創出されたもの」を区別して論じている。この二つが必ずしも一致するとは限らないという問題意識が刺激的である。

 次のような指摘も面白い。

 「現代科学が成功したのは、解ける問題、解きやすい問題、解く方法がわかっている問題、に特化してきたためと言えるかもしれない。自然現象のうち解ける見通しがついている問題を、あたかも難問であるかのような顔をして説いて見せて、あれこれ講釈してきたと言えるかもしれない。」

 この指摘に関連して、天才物理学者たちが晩年に非線形の研究に突入したことに触れ、次のように述べている。

 「非線形世界に行かねば物理世界は理解できないと、科学者なら誰もが薄々感じているのだが、我々の如き凡百の人間には手は出せない。湯川やハイゼンベルクやアインシュタインは若くしてノーベル賞を受賞したような大天才で、偉大な業績を残したがために思い切った冒険ができたのだろう。結局、成果のない冒険に終わったのだが。」

 まだまだ、未開の世界は大きいようだ。

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