懐旧読書の楽しさとは……2013年03月29日

『日本の顔顔顔…99』(疋田桂一郎・森本哲郎/朝日新聞社/1971.11)、『キス・キス』(ロアルド・ダール/開高健訳/早川書房/1976.7)
 40年ほど昔に出た次の2冊を続けて読んだ。

 『日本の顔顔顔…99』(疋田桂一郎・森本哲郎/朝日新聞社/1971.11)
 『キス・キス』(ロアルド・ダール/開高健訳/早川書房/1976.7)

 本棚の奥から引っ張り出してきたのではなく、2冊とも「日本の古本屋」で検索して購入した。

 『日本の顔顔顔…99』は1970年に「70年代の100人」というタイトルでほぼ1年にわたって朝日新聞に連載されたインタビュー記事をまとめたものだ。私はこのインタビューの多くを切り抜いていた。注目すべき人物(永島慎二、唐十郎、丸山健二、浅丘ルリ子、横尾忠則、野坂昭如、深沢七郎、竹内好、大島渚、渋沢龍彦、倉橋由美子、三島由紀夫、等等…)が多く取り上げられていたからだ。
 最近、家の中を整理していてその切り抜きが出てきた。何篇かを懐かしく読み返しているうちに、100人のインタビュー全部を読みたくなった。この連載記事は本にまとまっているのではなかろうかと推測し、「70年代の100人」で検索すると『日本の顔顔顔…99』が見つかった。本のタイトルにもサブタイトルにも「70年代の100人」という言葉がないのに検索できたのは、古本屋さんの適切なキーワード設定のおかげだ。インタビューは100人ではなく99人で終了したそうだ。

 『キス・キス』は早川書房の「異色作家短篇集」という叢書の第1巻目で、ダールの高名な短篇集だ。私は高校生の頃から、開高健が翻訳したこの短篇集が気になっていた。当時、本屋で何度か手にしながら、ついに購入に至らなかった。
 それを還暦を過ぎてからネットの古本屋で購入したのは、三谷幸喜氏の新聞連載エッセイがきっかけだ。三谷氏は、この短篇集に収録されているある小説とヒチコックの映画の内容がそっくりだと指摘していた。
 このエッセイを読んで、未読だった『キス・キス』を読みたくなり、ネットで検索した。私が購入した「異色作家短篇集1」は高校生の頃に本屋で手にした版ではなく、後年に刊行された改訂版だった。

 『日本の顔顔顔…99』と『キス・キス』は、インタビュー記事の集成と異色短篇集であり、ジャンルの違う異質の本である。だが、この2冊を読み終えた私の頭の中では両者が似たものとして混じり合っている。2冊とも40年前という時代の懐かしさを感じさせるからだろうか。この2冊に共通の懐かしさを誘う読後感は、現代の本屋に並んでいる新刊本からは得られないものだ。

 「70年代の100人」というインタビュー記事を書いたのは疋田桂一郎氏と森本哲郎氏、ともに当時の朝日新聞の大物記者だ。対象人物の発言を紹介するだけのQ&Aではなく、人物紹介・人物評が色濃く盛り込まれている。
 40年前に新聞記事で読んだ頃にはさほど気にならなかったが、現在の目で読むと、インタビュアーの疋田氏と森本氏の人物評のやや意地悪な上から目線が気になった。当時はこんなインタビュー記事が標準スタイルだったのかもしれない。現在の新聞では、このような辛辣なインタビュー記事はあまり見ない。

 この「意地悪な見方」は、ダールの短篇にも共通している。「意地悪な見方」というスタイルが当時のカルチャーの一つの反映にも思える。

 私は、ダールの「意地悪な」短篇の「異色な」味わいをそれぞれに楽しみながら堪能できた。間違いなく初読なのだが、懐かしい作品に出会った読後感がある。デジャブとも言える。只今現在の同時代作家の作品にない懐かしい読後感だ。ダールの作品が類型的で古くさく見えたというわけではない。グリム童話に通ずる普遍的な魅力に似ているのだ。

 ダールとヒチコックの作品の類似を指摘した三谷孝喜氏も、昔から伝わってきた話を二人がそれぞれに料理したのかもしれないと推測していた。
 言い伝えを昇華した民話や童話には懐かしさを誘う魅力があり、ダールの魅力もそれに似ている。

 そして、「70年代の100人」という40年前のやや辛辣なインタビュー記事にも、民話や童話に通じる魅力を感じた。
 スタイルとしてのインタビューの辛辣さは必ずしも的を射ているわけではない。的外れな辛辣さも多い。40年後の目で見れば、インタビュアーも登場人物の一人であり、ちょっと間抜けな意地悪爺さんに見えてくる。当時の99人のその後も大体はわかっている。
 だから、後知恵の余裕で昔のインタビュー記事を読むという体験は、結末がわかっている民話を繰り返し読む楽しみに似ているような気がするのだ。懐旧読書のやや後ろめたい楽しみとも言える。

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