向前一小歩、文明一大歩2010年06月19日

 先週、北京・桂林・上海を巡る中国旅行に行った。中国に行くのは初めてだった。予測はしていたが、北京・上海が東京をしのぐ大都市開発にまい進している様子に圧倒され、太陽が赤く見えるスモッグに暗然とした。

 それはさておき、私たち日本人が中国の街を歩くとき、あの不可思議な漢字の看板のせいで、他の異国の街とは全く異なる感慨を抱かざるを得ない。中国語を習得している人にとっては、漢字の看板も英語の看板も似たものかもしれない。しかし、中国語を知らない日本人にとって、ある程度読めてしまう漢字の看板は、分かりそうで分からない謎々のようなものだ。だから、中国の街を歩いていると、隔靴掻痒の夢の街をさまよっているような不思議な気分になってくる。

 初めての中国旅行で私が面白く思ったのは、多くの男子トイレに掲示されていた「向前一小歩、文明一大歩」という表記だ。中国に行ったことがある人にとっては何でもない表記かもしれないが、私には印象的だった。だから、場所柄もわきまえずに写真を撮ってしまった。

 この表記は、トイレを汚さないために一歩前に出ろという意味だろうとは容易に推測できる。それにしても、トイレで一歩前に出ることが「文明」の「大きな一歩」になるとは、何という大げさな表現だろうと思ってしまう。トイレで小便するときの小さな一歩が、まるで人類初の月着陸を果たしたアームストロング船長の一歩のようである。

 とは言っても、白髪三千丈式の大仰な表現ではなく、「文明」という言葉は中国と日本では意味が違うのだろうとは推測した。そこで、この標語をメモして、中国人ガイドに「文明」の意味を聞いてみた。ガイドの苦笑いをしながらの説明で、「文明」にマナーとか礼儀という意味があることが分かった。
 説明のあと、中国人ガイドは「あの表記を写真に撮る日本人がいるので、びっくりしました」と言った。私も写真を撮りましたとは言いそびれたが、自分が一般的日本人のワン・オブ・ゼムであることをあらためて認識させられることになった。