アリョーシャは「現代のキリスト」という見立て2025年12月25日

『謎とき『カラマーゾフの兄弟』』(江川卓/新潮選書/1991.6)
 江川卓の『謎とき『カラマーゾフの兄弟』』を再々読した。

 『謎とき『カラマーゾフの兄弟』』(江川卓/新潮選書/1991.6)

 最初に読んだのは、30年以上昔の刊行時だと思う。2回目に読んだのは13年前、亀山郁夫の新訳で『カラマーゾフの兄弟』を再読したときだ(最初は、学生時代に米川正夫訳で読んだ)。江川卓の論考でぼんやり記憶に残っている事項もあるが大半は失念している。

 だが、はっきり憶えている点がある。13年前に本書を読了したとき、今度は『カラマーゾフの兄弟』を江川卓訳で読もうと思ったのだ。

 江川卓訳『カラマーゾフの兄弟』は集英社の世界文学全集に収録されている。ネット古書店で容易に入手できるだろうと思った。だが、それが困難だった。ほとんど出品されていない。数少ない古書は異常に高価だ。なぜ江川卓訳の文庫版がないのか不思議だった。

 昨年の夏、『カラマーゾフの兄弟』をベースにした野田秀樹の『正三角関係』を観劇する際は、新潮文庫の原卓也訳でこの長編を再々読した。

 そして今年の夏、待望の江川卓訳『カラマーゾフの兄弟』が中公文庫(全4巻)で刊行された。刊行と同時に入手したが、すぐに読んだわけではない。『カラマーゾフの兄弟』はくり返し読みたくなる小説だが、読み始めるには多少の心の準備と覚悟が必要だ。

 年末が迫り、この夏に入手した江川卓訳『カラマーゾフの兄弟』を年内に読もうと覚悟した。年を越すといつ挑戦できるかわからない。

 この長編を読む前に『謎とき『カラマーゾフの兄弟』』を再々読するのが筋だと考え、本書を読んだのである。

 本書の読者の大半はすでに『カラマーゾフの兄弟』を読んでいるだろうが、本書を読み終えると、あらためて江川卓訳で『カラマーゾフの兄弟』を読み返したいと思うはずだ。著者の指摘を小説の本文で確認したくなるのだ。

 本書は、アリョーシャを「現代のキリスト」としている。それは「黒いキリスト」である。それに対してスメルジャコフは「白いキリスト」だが、それは「白いキリスト」の僭称者であり、実は「臆病なユダ」だという見立てである。

 本書が解き明かすカラマーゾフの世界は13年後の「幻の第二部」に照射されている。第一部終盤の「カラマーゾフ万歳!」という12人の少年たちの叫びは唐突だが、これは13年後の第二部に呼応している。13年後、キリストの没年と同じ33歳になったアリョーシャは皇帝暗殺事件の黒幕「黒いキリスト」として処刑される。暗殺の実行犯は元少年の12使徒のなかの一人である。

 『カラマーゾフの兄弟』は現存の「第一部」だけで十分に傑作だろうが、「幻の第二部」を視野に入れて読み解く方がはるかに面白い。

 江川卓はこの小説の「語り手」と「作者」は別だとしているようだが、その点については詳しく論じていない。次に『カラマーゾフの兄弟』を読むときは、その点も気にしながら読み進めたい。

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