『諸国を遍歴する二人の騎士の物語』は不気味で面白い2024年10月07日

 吉祥寺シアターで劇団青年座公演『諸国を遍歴する二人の騎士の物語』(作:別役実、演出:金澤菜乃英、出演:山路和弘、山本龍二、他」を観た。おかしくて不気味な別役ワールドを堪能した。

 舞台には「移動簡易宿泊所」の看板がある。面白い看板だ。旅人にとって、地図で確認できる灯台のような「固定宿泊所」こそが頼りだと思う。だが、考えてみれば、移動(遍歴)する人とともに移動する宿泊所の方が便利かもしれない。と言っても、どこに出現するかわからない宿泊所はあやふやで頼りない。この看板は、不思議世界に誘い込まれる秀逸な空間設定だ。

 『諸国を遍歴する二人の騎士の物語』は、ドン・キホーテとは大きく異なり、騎士は二人、従者も二人である。騎士はかなり年老いてヨボヨボである。そのくせに大食漢で、人殺しの技には長けている。しかも、ドン・キホーテとは逆に、従者より醒めた存在に見える。風車に突撃するのは騎士ではなく従者である。

 騎士と従者の他に、宿の亭主と娘、医師と看護婦、牧師が登場する。医師と看護婦は患者を求めてさすらい、牧師は葬儀を求めて医師たちの後を追うようにさすらっている。これらの人物が遭遇する移動宿泊所で最後まで生き残るのは、遍歴に疲れ果て、死に場所を求めているようにさえ見える騎士二人である。不条理というよりは、人の世のアイロニーが浮かび上がってくる。