『ファウスト』を初めて読んだが……2023年08月28日

『ファウスト(1)(2)』(ゲーテ/高橋義孝訳/新潮文庫)
 ふとした気まぐれでゲーテの『ファウスト』を読んだ。10年ほど前に購入して積んでいた文庫本である。

 『ファウスト(1)(2)』(ゲーテ/高橋義孝訳/新潮文庫)

 ゲーテの高名な代表作だから頑張って最後まで読んだが、読了した気分になれない。目を通しただけで咀嚼はできていないのだ。

 戯曲形式の大作で原文は韻文である。韻文の翻訳なので改行が多く、欄外に行番号を振っている。活字量はさほど多くはないが詩のような台詞が続くので、イメージを紡ぐのが難儀である。韻文の翻訳は大変だと思うが、不思議な訳文を読むのも疲れる。まったくの散文で訳すと原文の雰囲気が失われるのだろうが…。

 『ファウスト』はファウスト伝説に基づいた戯曲で、ゲーテのオリジナルではない。学問を究めたファウスト博士が悪魔メフィストーフェレスと契約を結び、メフィストーフェレスを従え、この世の知識と快楽を求めて遍歴する――そんな伝説の詳細に不案内な私には、この戯曲はわかりにくい。伝説を知らない人には不親切である。

 合唱のような詩的台詞や婉曲な表現が延々と続いていると思って油断していると、事態が急展開したりする。初めてこの作品に接する読者はとまどってしまう。

 ファウストが美女(グレートヒェン)を口説いていると思っていたら、いつの間にかその女性が嬰児殺しで牢獄にいる。私の読み落としのせいだが、びっくりする。また、ファウストが別の美女(ヘレネー)に出会ったと思えば、すぐに子供が出来ていて、アッという間に子供が成長し、あっけなく死んでしまう。

 キリスト教やギリシア神話の知識がなければわからない表現や情景が多く、同時代のアレコレを風刺した場面もある。註を参照しながら読み進めなければ、意味不明の語句に溺れてしまう。

 歌舞伎などの古典芸能と同じように、戯曲を精読したうえで、役者たちが演じる舞台をイヤホンガイドを聞きながら鑑賞すれば楽しめるのだろうと夢想した。

 ゲーテの著作は、数年前に『イタリア紀行』 を面白く読んだが、本書はお手上げに近い。上っ面を撫でただけで咀嚼できていない作品について軽々に読後感を述べることはできない。何度か繰り返し読まなければ、面白いか否かも判断できそうにない。