「食い物のうらみ」は歴史を動かす2022年09月30日

『カブラの冬:第一次世界大戦期ドイツの飢餓と民衆』(藤原辰史/人文書院)
 飢餓の時代を表すタイトルに惹かれて次の本を読んだ。

 『カブラの冬:第一次世界大戦期ドイツの飢餓と民衆』(藤原辰史/人文書院)

 第一次世界大戦中のドイツでは飢饉で76万人の餓死者が出た。ジャガイモがなくなり、カブラ(ルタバカ=スウェーデンカブ)ばかりが食卓に上った1916年から1917年にかけての冬を「カブラの冬」と呼ぶそうだ。本書は、10年ほど前に京大の「第一次世界大戦の総合的研究」という共同研究班が刊行した「レクチャー 第一次世界大戦を考える」という叢書の一冊である。

 私はナチス史に関心があるが、ナチスの台頭と飢餓の関係を意識したことはなかった。本書によって、第一次世界大戦時の「飢餓の記憶」がナチスを生んだという指摘を知り、あらためて「食い物のうらみ」の怖さを考えた。

 私は1948年生まれの戦後世代で飢餓の記憶はないが、親の世代は戦中戦後の食糧不足を体験している。子供の頃、母親から「誰もが空腹だった」話を繰り返し聞かされてきたので、疑似的な飢餓記憶は多少あるかもしれない。私の子供や孫の世代は幸いなことに飢餓と無縁に暮らしていると思うが、地球上から飢餓が消えたわけではない。

 近現代史はさまざまな大量餓死に刻印されている。日本は太平洋戦争でガ島(ガダルカナル)などで多くの餓死者を出している。スターリン時代のウクライナでは330の万人という尋常でない餓死者が出た。総力戦の時代には、ドイツだけでなくほとんどの参戦国の人々が飢えていた。 戦争は食糧の生産や流通を阻害することが多く、必然的に飢餓を招来する。未だに戦争の時代である21世紀、新たな飢餓の時代が来る可能性を考えてしまう。

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