『山田方谷伝』(宇田川敬介)は前半が面白い2022年05月06日

『備中松山藩秘話 山田方谷伝(上)(下)』(宇田川敬介/振学出版)
 昨年4月に刊行された山田方谷の伝記小説を読んだ。

 『備中松山藩秘話 山田方谷伝(上)(下)』(宇田川敬介/振学出版)

 山田方谷は備中松山藩の財政再建を果たし、老中首座・板倉勝静(松山藩主)のブレーンとして幕末の国政にも関与した人物である。貧農(元は武士)の生まれながら幼少の頃から神童と呼ばれ、農民から藩主に次ぐ地位にまで登りつめる。学者でありながら実務家としての手腕も発揮し、晩年は田舎で教育に尽力した。

 私が 山田方谷に関する本をまとめて読み、 方谷ゆかりの地を訪れたのは6年前だ。その後、方谷について考える機会はなかったが、この伝記小説を読んで6年前の記憶が少し甦ってきた。

 上下2冊、架空の人物も登場する小説仕立てなので読みやすい。30代前半までを描いた上巻が面白い。才能ある貧しい子供の成長物語、青春群像の友情物語である。教養小説とも言える。学問を習得することの重要さを率直に語っているのは、知性の衰退が懸念される現代社会への警鐘にも感じられる。

 後半は幕末の政治情勢のなかの方谷を描いている。将軍継嗣問題、安政の大獄、桜田門外の変、禁門の変、長州征伐、薩長同盟、大政奉還、戊辰戦争など激動の時代にあって、著者は方谷を「予言者」のように描いている。方谷が時代を見通す目をもっていたとは思うが、ワンパターン仕立てのように感じた。

 歴史小説は著者による人物評価小説でもある。筆者によって評価が分かれるのは当然で、特に幕末の人物評価は難しい。この小説では西郷隆盛を最大限に評価し、徳川慶喜を責任転嫁のダメ人間としている。方谷が実際にそういう見方をしていたか否かは、私にはよくわからない。

 私は、箱館戦争の際に榎本武揚と行動を共にしていた板倉勝静を方谷が連れ戻す話に関心があり、それをどう描いているかに興味があった。しかし、この小説ではこの話は省略していた。残念である。

 蛇足ながら、誤植がいくつか目についたのも残念である。

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