モンゴル帝国史の杉山正明氏は、本当は世界史をやりたい2021年10月07日

『ユーラシアの東西』(杉山正明/日本経済新聞出版社)
 歴史学者・杉山正明氏の次の本を読んだ。

 『ユーラシアの東西』(杉山正明/日本経済新聞出版社)

 本書は2010年12月の刊行、10年以上前の本だが、アフガニスタンに関する記述などは現在の情勢にもあてはまり、歴史家の慧眼を感じる。

 杉山氏の著書は『遊牧民から見た世界史』をはじめとして、西欧中心史観見直しへの気迫に満ちていて刺激的である。

 本書は講演、エッセイ、対談などの集成で、サブタイトルは「中東・アフガニスタン・中国・ロシア・そして日本」と長い。現代の世界を地政学的に眺めた考察もある。約10年前の本書刊行時のアフガニスタンは、米軍によるタリバン駆逐後だが、依然として情勢は混沌としていた。著者は、文明の十字路とも言われるこの地の長い歴史をふまえて次のように述べている。

 《(…)そこでは「中世」がまだ生きている。(…)きわめて難治の土地柄が、時代をこえて脈々たる伝統となって息づいているわけである。》

 《実は歴史上、きわだって〝大帝国〟か巨大勢力圏を形成したアレクサンドロス、モンゴル、イギリス、ロシア・ソ連、アメリカは、事情と様相はさまざまに異なるけれど、いずれもおもしろいことにアフガニスタンで苦しんだことになる。》

 著者は本書の随所で「世界史への遠望」を語っている。著者の専門はモンゴル帝国史だが、本当は世界史をやりたいそうだ。それには3回ぐらい転生しなければならないとも述べている。そのうえで、日本発の「世界史学」を提唱している。世界各国に受け容れやすい世界史像の研究には日本が適しているという考えである。魅力的な提言だと思う。