『もう一つ上の日本史』(近代~現代篇)の後半が面白いが…2020年11月03日

『もう一つ上の日本史 近代~現代篇:『日本国紀』読書ノート』(浮世博史/幻戯書房)
 『もう一つ上の日本史』の2巻目を読んだ。

 『もう一つ上の日本史 近代~現代篇:『日本国紀』読書ノート』(浮世博史/幻戯書房)

 2巻目は明治維新から現代までの近現代史で、それ以前を扱った1巻目より頁数が多い。だが、こちらの方が短時間で読了できた。身近な近現代史なので頭に入りやすく、比較的スラスラ読める。後半の戦後以降は、歴史書の趣が少し変化し、百田氏のトンデモ本的な陰謀論や戦後思潮批判の批判的検証になる。この部分が面白いのだが、私は『日本国紀』未読なので感想は控える。

 以下、私の抱いていた歴史像が本書によって転換させられた事柄をいくつか羅列する。

 明治4年の岩倉使節団の目的の一つは、不平等条約改正の交渉ではなく「不平等条約改正交渉の延期」を取り付けることだったそうだ。米国で条約改正交渉に失敗しているのは、現地に到着してから方針変更をした森有礼、伊藤博文の「勇み足」によるものだった。

 そもそも、不平等条約は幕府が締結したものと思われているが、幕府の締結した条約はさほど不平等ではなく、その後に長州が引き起こした下関事件や新政府の失態で不平等になったそうだ。自分たちの尻ぬぐいを幕府のせいだと喧伝したようだ。

 征韓論に関して、「西郷・板垣vs木戸・大久保」の構図で考えるのは単純すぎ、西郷と板垣、木戸と大久保の間にも考えの違いがあったそうだ。板垣は日本の居留民保護を名目にした軍派遣を主張し、西郷は旧幕府時代の外交に則った交渉を主張した。西郷が「自分が殺されたら、それを大義名分に朝鮮を攻めろ」と言ったのは俗説だそうだ。

 日露戦争に関しては司馬遼太郎の『坂の上の雲』によるイメ―ジが強いが、あれはやはり小説で、俗説に基づいた史実離れの部分も多いらしい。軍事力や経済力で圧倒的に優るロシアに辛勝したというイメージは、国民に「不利な講和」を納得させるための日本政府のイメージ戦略だったようだ。要検証ではあるが…

 1938年のミュンヘン会談でチェコのズデーテン地方のドイツへの割譲が決まったとき、ヒトラーは「これが最後の領土的要求である」と述べた――と『日本国紀』に書いてあるそうだ。ヒトラーのこの科白は私もどこかで読んだ記憶があり、印象に残っている。だが、ヒトラーがこんな発言をしたという記録はないそうだ。著者は、チャーチルが回顧録『第二次世界大戦』で「盛った話」とにおわしている。

 ……などなど、書いていけばキリがない。

 本書の後半で江藤惇が言い出したGHQによる「WGIP:ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム=戦争についての罪悪感を日本人に植え付けるための宣伝計画」の過大評価を批判した著者の見解は明解で説得的だった。