司馬遼太郎と林家辰三郎の歴史対談本は面白い ― 2025年04月21日
次の歴史対談本を読んだ。
『歴史の夜咄』(司馬遼太郎・林家辰三郎/小学館文庫)
司馬遼太郎と歴史学者・林家辰三郎の対談8編を収録している。1972年から1980年にかけての対談で、雑誌や新聞に掲載されたものがメインだ。
この古い対談集を読んだきっかけは、昨年読んだ『日本に古代はあったのか』(井上章一)である。これはとても面白い本で、私が昨年(2024年)読んだ本のベスト3に入る。井上章一氏によれば、司馬遼太郎は関東史観、林家辰三郎はそうではない。後者に与する井上氏は、二人の対談本を次のように紹介している。
「対談じたいは、なごやかにすすんでいる(…)
だが、私にはこれがプロレスの試合めいて、見えなくもない。たがいの得意技に、見せ場をじゅうぶんにあたえたうえで、全体をはこんでいく。そんなゲーム、よくできた応酬を、おがませてもらったような気もする。
京都の学統をうけつぐ碩学が、関東史観の国民作家を、どうむかえうつか。その醍醐味が、この対談ではあじわえた。歴史好きには一読をすすめたい。けっこうはらはらさせられることを、うけおう。」
この文章に釣られて本書を読んだのである。井上氏のコメントは、本書2編目の対談「日本人はいかに形成されたか」に関するものだ。で、この対談を読んだ私が「はらはらさせれた」かと言うと、そうでもない。「ヘェー」と感心しながら読んだだけである。私の未熟な知識や洞察力は「はらはら」を感じるレベルにないと認識した。
「はらはら」はしないが、新たな知見に接して大いに刺激になった。「日本の律令体制は中国を真似ていながら、実は日本向きの骨抜きだった」「“天皇”という用語は大いなる独創」「中国からの返書に“倭王”とあるのを、役人が“王”の上に“白”を足して“倭皇”として記録した」など、面白い話がたくさん出てくる。二人の見解の違いは、日本人の心性の原型が形成された時期を、司馬遼太郎は鎌倉時代ごろ、林家辰三郎は東山時代ごろと考えているということのようだ。
全編を通して、読みやすくて面白い対談だった。司馬遼太郎は関東と関西の比較論が好きなのだなあと思った。関東は父系、関西は母系だそうだ。時代とともにゴチャゴチャになるだろうとは思うが…。
本書には山陽新聞(岡山県の地方紙)に載った対談が2つある。「花開いた古代吉備」と「中世瀬戸内の風景」である。私は岡山県出身なので興味深く読んだ。私の知らないことばかりだった。「古代の吉備は日本全体を支配しようという意図をもっていた」「津山は魏志倭人伝の投馬国」という林家説には驚いた。
『歴史の夜咄』(司馬遼太郎・林家辰三郎/小学館文庫)
司馬遼太郎と歴史学者・林家辰三郎の対談8編を収録している。1972年から1980年にかけての対談で、雑誌や新聞に掲載されたものがメインだ。
この古い対談集を読んだきっかけは、昨年読んだ『日本に古代はあったのか』(井上章一)である。これはとても面白い本で、私が昨年(2024年)読んだ本のベスト3に入る。井上章一氏によれば、司馬遼太郎は関東史観、林家辰三郎はそうではない。後者に与する井上氏は、二人の対談本を次のように紹介している。
「対談じたいは、なごやかにすすんでいる(…)
だが、私にはこれがプロレスの試合めいて、見えなくもない。たがいの得意技に、見せ場をじゅうぶんにあたえたうえで、全体をはこんでいく。そんなゲーム、よくできた応酬を、おがませてもらったような気もする。
京都の学統をうけつぐ碩学が、関東史観の国民作家を、どうむかえうつか。その醍醐味が、この対談ではあじわえた。歴史好きには一読をすすめたい。けっこうはらはらさせられることを、うけおう。」
この文章に釣られて本書を読んだのである。井上氏のコメントは、本書2編目の対談「日本人はいかに形成されたか」に関するものだ。で、この対談を読んだ私が「はらはらさせれた」かと言うと、そうでもない。「ヘェー」と感心しながら読んだだけである。私の未熟な知識や洞察力は「はらはら」を感じるレベルにないと認識した。
「はらはら」はしないが、新たな知見に接して大いに刺激になった。「日本の律令体制は中国を真似ていながら、実は日本向きの骨抜きだった」「“天皇”という用語は大いなる独創」「中国からの返書に“倭王”とあるのを、役人が“王”の上に“白”を足して“倭皇”として記録した」など、面白い話がたくさん出てくる。二人の見解の違いは、日本人の心性の原型が形成された時期を、司馬遼太郎は鎌倉時代ごろ、林家辰三郎は東山時代ごろと考えているということのようだ。
全編を通して、読みやすくて面白い対談だった。司馬遼太郎は関東と関西の比較論が好きなのだなあと思った。関東は父系、関西は母系だそうだ。時代とともにゴチャゴチャになるだろうとは思うが…。
本書には山陽新聞(岡山県の地方紙)に載った対談が2つある。「花開いた古代吉備」と「中世瀬戸内の風景」である。私は岡山県出身なので興味深く読んだ。私の知らないことばかりだった。「古代の吉備は日本全体を支配しようという意図をもっていた」「津山は魏志倭人伝の投馬国」という林家説には驚いた。

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