ディープな歴史コミック『アンナ・コムネナ』に驚愕2025年04月08日

『アンナ・コムネナ(1)~(6)』(佐藤二葉/星海社COMICS/星海社)
 先月(2025年3月17日)の朝日新聞で、コミック『アンナ・コムネナ』完結の記事に遭遇したときは驚いた。数年前から気がかりなコミックだったのだ。「アンナ・コムネナ」を検索するとこのコミックが出てくる。アマゾンの「サンプル読み」で第1巻の冒頭部分を読み、マイナーな歴史を少女マンガの語り口で大胆かつマニアックに記述するアンバランスに驚いた。購入しようかなと思いつつも、あまりに少女マンガなので、後期高齢男性の私は躊躇していた。

 新聞記事によれば、2021年に第1巻が出た『アンナ・コムネナ』が今年2月に完結したそうだ。作者の佐藤二葉氏はギリシア悲劇を大学院で専攻した人で、アンナ・コムネナが著した史書『アレクシアス』の邦訳が2019年に出たのをきっかけに、このコミックを執筆したという。ビザンツ史家の井上浩一氏も時代考証の相談に乗っているそうだ。そんなコミックなら読むしかない。

 私が先日、井上氏の『歴史学の慰め:アンナ・コムネナの生涯と作品』を読んだのは、実はこの記事がきっかけである。アンナ・コムネナに関しては断片的な知識しかないので、コミックを読む前に評伝を読もうと思ったのだ。この評伝に続いて、いよいよコミック全6巻を読んだ。

 『アンナ・コムネナ(1)~(6)』(佐藤二葉/星海社COMICS/星海社)

 ディープな歴史を扱った少女マンガである。ビザンツ史に関心のある私には、とても面白かった。歴史書で目にする人名や地名が具体的な姿で現前するのに感動した。もちろんフィクションの部分もあるだろうが、歴史の現場をイメージできて楽しい。

 この歴史絵巻コミックは、ギャグ、ラブコメ、フェミニズムなどの要素を盛り込んだ宮廷ホームドラマであり、成長物語である。姉・弟(アンナとヨハネス)の確執と夫婦愛(アンナとニケフォロス・ブリュエンニオス)を軸に物語が進行する。史実と思われる事項をベースに奔放な想像力で物語を紡いでいく作者の力量に感服した。なるほど、そういう解釈もあり得るのかと感心する箇所もいくつかあった。

 こんなテーマのコミックが存在することに、日本のコミック恐るべしの感を新たにした。本書を読むと、『アレクシアス』にも取り組まねばという気になってくる。2019年に邦訳が出た『アレクシアス』は、かねてから気がかりな本だが、その価格(8000円)とボリュームにたじろいでいるのだが…。

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