青年座の『Lovely wife』はブラック・コメディ2025年03月11日

  本多劇場で劇団青年座公演『Lovely wife』(作・演出:根本宗子、出演:高畑淳子、岩松了、他)を観た。

 根本宗子は35歳の劇作家・演出家・元女優である。私はこの芝居のチラシで初めてこの人を知った。『Lovely wife』は彼女が青年座のために書いた新作だそうだ。チラシには、芝居の内容に関する記述が全くない。題名と出演者だけの情報でチケットを購入したのは、未知の若い作家の新作に接するのも一興だと思ったからである。

 題名とチラシの写真から、ホーム・コメディだろうと想像した。確かにホーム・コメディに近かった。笑える場面が多い。だが、かなり苦い。ブッ飛んだ展開もある。チラシ写真のようなラーメンを食する場面はなかった。演劇ならではの仕掛けを駆使した面白い芝居だった。

 65歳になった夫婦を巡る話である。妻の秋江(高畑淳子)は編集者、夫(岩松了)は作家である。昔、若い女性編集者(秋江)が若い作家を担当し、二人は結婚する。夫は売れっ子作家となり、他の若い女性編集者との浮気をくり返す。いまや、夫婦の間は冷え切っている――という設定である。

 芝居の冒頭近く、秋江と幼馴染の親友(伊勢志摩)との会話シーンがある。独身の親友は売れっ子の装丁家である。気の置けない親友同士の楽しげな会話だが、その内容は尋常でない。装丁家は自身が同性愛者だとカミングアウトし、恋愛対象が親友の秋江だったと告白する。同性愛者でない秋江は、65歳になってからの幼馴染の告白に驚く――といっても、スゴク驚いているようには見えない。

 装丁家は秋江に「あんな亭主と別れて自分と一緒に暮らそう」と提案する。秋江にとっても検討の余地のある提案のようだ。この導入部を観て、一体どんな展開になるのやらと驚いた。だが、同性愛方向に話が進展するわけではなく、装丁家は芝居全体のコミカルな舞台回しだった。

 この芝居は、現在の場面に過去の追憶場面が重なる。追憶場面では若い役者が夫婦を演じる。だが、装丁家だけは現在も追憶場面も同じ役者である。過去と現在を自在に行き来するのだ。

 舞台回しだけでなく回り舞台も活用している。舞台が回ると「夫妻の居間」「カフェ」「ホテルの宴会場」に場面が転換する。夫は、都合が悪くなると舞台の回転を命じて自ら場面転換を図る。だから、舞台は何度も回る。場面転換と現在・過去を錯綜させながらテンポよく芝居が進行する。こんな方法があったのだと感心した。