2024年下期芥川賞受賞作2作を読んだ2025年02月14日

 『文藝春秋 2025年3月号』をコンビニで購入した。年2回の芥川賞発表号だけはこの月刊誌を買ってしまう。惰性に近い。最近の小説にさほど関心がないのに、芥川賞作品ぐらいは目を通しておこうと思うのは、達観や解脱からほど遠いわが俗物性の故である。

 閑話休題。今回の受賞作は次の二つだ。

 『DTOPIA』(安堂ホセ)
 『ゲーテはすべてを言った』(鈴木結生)

 安堂ホセ氏は30歳、鈴木結生氏は23歳。二人とも若い。二作品とも面白かった。読みながらビックリした。『DTOPIA』では話の暴走と漂流に驚き、『ゲーテはすべてを言った』では半端でない文学研究オタクぶりに驚いた。

 『DTOPIA』はネット中継する恋愛リアリティショーの話である。時代は2024年、場所はタヒチの近くのボラ・ボラ島である。私には、近未来の異世界に感じられる舞台だ。私はタヒチに行ったことはあるが、ボラ・ボラ島は知らなかった。小説を読みながら、ウィキペディアとグーグル・マップでその実在と魅力を確認した。作中人物が『ポリネシアが中心だと』『地球は真っ青なんだ』と語るのを読んだとき、グーグル・マップのズームアウト操作でそれを追認した。まさにその通りだと感心した。

 『DTOPIA』は途中から「これはなんじゃ」という展開になるが、最後は何とか着地した。人種ミックスやLGBTが当然の前提のような世界を描いている。

 『ゲーテはすべてを言った』は23歳の作者の博学・衒学ぶりに感心した。受賞者インタビューによれば、小学生のときに『神曲』を読み終えてたそうだ。私が読み終えたのは75歳のとき(去年)だ。

 この小説は、筒井康隆氏の『文学部唯野教授』『敵』を連想させる教授小説である。浮世と少しくズレた大学教授の生態が面白い。この小説に登場する然紀典(しかりのりふみ)という学者の顛末には舌を巻いた。作者のしたたかな知力を感じる。だが、主人公の教授一家の姿がメルヘンのようなホームドラマなのが少々こそばゆい。緻密な仕掛けに満ちたエンタメ小説に思えた。