『元禄忠臣蔵』はエピソードの戯曲集 ― 2024年12月26日
年末である。忠臣蔵を読みたくなった。私は、かなり以前に忠臣蔵にハマった時期があり、かなりの忠臣蔵モノを読んだ。と言っても、この10年ほどはほとんど読んでいない。書店で忠臣蔵モノを見つけるとつい購入することが多かったので、未読本も少なくない。気がかりだった次の忠臣蔵を読んだ。
『元禄忠臣蔵(上)(下)』(真山青果/岩波文庫)
本書は高名な戯曲である。上下2巻と長いので、赤穂事件の全貌を描いた大河ドラマのような作品だと思っていた。だが、少し違っていた。
昭和初期に発表された本書は新歌舞伎の戯曲集である。10編の連作であり、それぞれが独立して上演されたようだ。エピソード集に近い。全10編のタイトルは以下の通りである。
(1) 江戸城の刃傷
(2) 第二の使者
(3) 最後の大評定
(4) 伏見撞木町
(5) 御浜御殿綱豊卿
(6) 南部坂雪の別れ
(7) 吉良屋敷裏門
(8) 泉岳寺
(9) 仙石屋敷
(10) 大石最後の一日
この並びは出来事の時系列だが、(7)と(8)は時間が多少重なっている。(8)は(7)の末尾から少し時間が遡った時点から始まる。10編の戯曲は、1934年(昭和9年)から1940年(昭和15年)にかけて雑誌(『日の出』『キング』)に掲載された。最初の作品は「(10) 大石最後の一日」、最後の作品は「(5) 御浜御殿綱豊卿」だから、発表は時系列ではない。
各作品のト書き部分は、史伝エッセイの趣もある。著者は史書に基づいた歴史小説のつもりでこの戯曲を書いたのかもしれない。
本書に討ち入りのシーンはなく、全体として討ち入り後の話にウエイトがある。「(8) 泉岳寺」は、討ち入り後に泉岳寺に駆け付けた高田群兵衛(脱盟者)の件りが面白い。
全10編のなかで私が一番惹かれたのは「(5) 御浜御殿綱豊卿」である。甲府家当主綱豊(綱吉の次に将軍になる家宣)と冨森助右衛門の話である。綱豊のお浜御殿(いまの浜離宮)での催しに吉良上野介が来ると知った助右衛門は、忍び込んで上野介の顔を確認しようと画策する。赤穂浪士の討ち入りを期待している綱豊は助右衛門と面談しようとする――という展開である。
私はこのエピソードを知らなかった。どこかで読んでいたとしても失念している。だから興味深く読んだ。韜晦する綱豊と、それを見抜く助右衛門の緊張感をはらんだやり取りが面白い。
『元禄忠臣蔵(上)(下)』(真山青果/岩波文庫)
本書は高名な戯曲である。上下2巻と長いので、赤穂事件の全貌を描いた大河ドラマのような作品だと思っていた。だが、少し違っていた。
昭和初期に発表された本書は新歌舞伎の戯曲集である。10編の連作であり、それぞれが独立して上演されたようだ。エピソード集に近い。全10編のタイトルは以下の通りである。
(1) 江戸城の刃傷
(2) 第二の使者
(3) 最後の大評定
(4) 伏見撞木町
(5) 御浜御殿綱豊卿
(6) 南部坂雪の別れ
(7) 吉良屋敷裏門
(8) 泉岳寺
(9) 仙石屋敷
(10) 大石最後の一日
この並びは出来事の時系列だが、(7)と(8)は時間が多少重なっている。(8)は(7)の末尾から少し時間が遡った時点から始まる。10編の戯曲は、1934年(昭和9年)から1940年(昭和15年)にかけて雑誌(『日の出』『キング』)に掲載された。最初の作品は「(10) 大石最後の一日」、最後の作品は「(5) 御浜御殿綱豊卿」だから、発表は時系列ではない。
各作品のト書き部分は、史伝エッセイの趣もある。著者は史書に基づいた歴史小説のつもりでこの戯曲を書いたのかもしれない。
本書に討ち入りのシーンはなく、全体として討ち入り後の話にウエイトがある。「(8) 泉岳寺」は、討ち入り後に泉岳寺に駆け付けた高田群兵衛(脱盟者)の件りが面白い。
全10編のなかで私が一番惹かれたのは「(5) 御浜御殿綱豊卿」である。甲府家当主綱豊(綱吉の次に将軍になる家宣)と冨森助右衛門の話である。綱豊のお浜御殿(いまの浜離宮)での催しに吉良上野介が来ると知った助右衛門は、忍び込んで上野介の顔を確認しようと画策する。赤穂浪士の討ち入りを期待している綱豊は助右衛門と面談しようとする――という展開である。
私はこのエピソードを知らなかった。どこかで読んでいたとしても失念している。だから興味深く読んだ。韜晦する綱豊と、それを見抜く助右衛門の緊張感をはらんだやり取りが面白い。
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