『聖書物語』(木崎さと子)は神へのツッコミが面白い2024年02月29日

『ビジュアル版 聖書物語』(木崎さと子/講談社)
 先日、『ユダヤ人は、いつユダヤ人になったのか』を読み、自分が旧約聖書について無知だと認識し、かなり以前に入手したまま未読だった次の本を読んだ。

 『ビジュアル版 聖書物語』(木崎さと子/講談社)

 文学者の視点で聖書の内容を物語風に紹介した本である。前半の約三分の二が旧約聖書、後半の約三分の一が新約聖書だ。著者は1939年生まれの芥川賞作家、43歳でカトリックの受洗をしている。

 聖書は超有名本だから目を通しておかねばと若い頃から思っていた。旧約の『創世記』『出エジプト記』、新約の『マタイ伝』だけは読んでいるはずだが、内容をよくおぼえていない。齢を重ね、いまさら聖書に取り組もうという気力は失せ、木崎氏の『聖書物語』が手頃と思って入手したのが数年前。それをやっと読了したのである。

 私にとって旧約聖書のイメージは、小学生の頃に観た映画『十戒』のモーゼである。だが、あれは旧約のほんの一部に過ぎず、旧約の大半はおよそ千年にわたるイスラエル人の歴史を延々と語っているようだ。

 本書を読んでいて、旧約のどこが「聖書」なのだろうという気がした。ありがたい教えを説いている書とは思えないのである。そこに面白さがあるのかもしれない。

 旧約は史書ではなく伝説の集成に近く、人類の愚行を言い伝える書のように思える。その愚行はかなりゴチャゴチャしていて、頭に入りにくい。ざっくり言えば、人間は神への信仰と裏切りを繰り返し、神はそんな人間を懲らしめることを繰り返しているのである。

 著者はキリスト教徒ではあるが、本書では神に対するかなり辛辣なツッコミが随所にある。聖者や預言者たちの言動に現代人の感覚から違和感を表明している箇所もある。私には、そんなところが面白かった。

 後半の新約聖書はイエスの伝記という体裁で、かなりすっきりしていて読みやすい。個別の福音書それぞれを解説するのではなく、「マタイ」「マルコ」「ルカ」および「ヨハネ」による福音書をベースに、イエスの生誕から復活までの言動を解説し、それぞれの福音書における表現の違いを指摘している。初心者に親切な解説だ。

 新約聖書はイエスの復活で終わるのではなく、その後のパウロによる宣教の旅があり、さらにはヨハネの黙示録もある。これらも簡潔に解説していて、なるほどと思った。

 本書を読んで、私が何となく知っている故事や格言の多くが聖書由来だと知った。西欧キリスト教文化圏の人々の思考のベースを把握するには、旧約聖書・新約聖書の基本的な知識が必須だとあらためて認識した。