ソグド人と吉備真備が活躍する歴史小説『ふりさけ見れば』 ― 2023年08月06日
『ふりさけ見れば(上)(下)』(安部龍太郎/日本経済新聞出版)
日経新聞連載中(2021年7月~2023年2月)から注目していた歴史小説である。連載を読みながら、単行本になったらじっくり読みかえそうと思っていた。この小説に注目した理由は以下の通りだ。
(1) ソグド人が活躍する。ソグド人は5年程前から私の関心事項。
(2) 吉備真備が活躍する。吉備真備は3年程前から私の関心事項。
(3) 私にとっては新しい歴史知識が盛り込まれている。
タイトルが示すとおり阿部仲麻呂を描いた歴史小説である。遣唐使留学生として唐に渡り、帰国を果たせなかった人物だ。仲麻呂と同時に入唐した吉備真備も活躍する。単行本で一気に読み返すと真備の印象が強い。仲麻呂と真備、二人が主人公の歴史小説と言える。
物語は、二人が唐で18年の年月を過ごした時点に始まる。遣唐使船が来航し、真備は帰国の途につくが仲麻呂は唐に残る。その後、紆余曲折を経て二人が生涯を終えるまでの約半世紀を描いている(仲麻呂は770年に70歳で死去、真備は775年に80歳で死去)。史実をベースにした大いなるフィクションである。やや不自然に感じる展開もあるが、ラストでは往時茫々の感慨がわいた。
私にとっては、ストーリーよりもディティールを楽しむ小説だった。多くのソグド人がさまざまな立場で活躍するのが面白い。最近の高校世界史の教科書にはソグド人が登場するそうだが、私がソグド人を知ったのは数年前だ。『シルクロードと唐帝国』や『ソグド商人の歴史』などを読んで関心が高まった。ソグド人に関する一般向け概説書が出版されないかと期待している。この歴史小説が呼び水になればいいのだが。
ソグド人への関心から松本清張の『眩人』を読み、吉備真備への興味がわいた。『吉備真備』や『吉備真備の世界』によって、一応の伝記的事柄を知った。残された史料が少なく、詳細がわからない人物である。フィクションの世界では『天平の甍』や『火の鳥』でイヤミなインテリに描かれている。テレビドラマ『大仏開眼』は真備をかなり美化していた。
『ふりさけ見れば』の真備は、真面目な秀才・仲麻呂と対称的な世故に長けた出世主義の俗物に描かれている。だが、しだいに行動的な辣腕家と理念型政治家をミックスした魅力的な人物になっていく。好感がもてた。
吉備真備は詩歌をものせず、文章なども残っていない。ところが2019年12月、真備の書とされる墓誌が中国で発見されてニュースになった。『ふりさけ見れば』は、この墓誌に関する経緯もしっかり書き込んでいる。また、2004年になって新たに存在が確認された遣唐使留学生・井真成も登場する。まさに、21世紀の歴史小説である。
日経新聞連載中(2021年7月~2023年2月)から注目していた歴史小説である。連載を読みながら、単行本になったらじっくり読みかえそうと思っていた。この小説に注目した理由は以下の通りだ。
(1) ソグド人が活躍する。ソグド人は5年程前から私の関心事項。
(2) 吉備真備が活躍する。吉備真備は3年程前から私の関心事項。
(3) 私にとっては新しい歴史知識が盛り込まれている。
タイトルが示すとおり阿部仲麻呂を描いた歴史小説である。遣唐使留学生として唐に渡り、帰国を果たせなかった人物だ。仲麻呂と同時に入唐した吉備真備も活躍する。単行本で一気に読み返すと真備の印象が強い。仲麻呂と真備、二人が主人公の歴史小説と言える。
物語は、二人が唐で18年の年月を過ごした時点に始まる。遣唐使船が来航し、真備は帰国の途につくが仲麻呂は唐に残る。その後、紆余曲折を経て二人が生涯を終えるまでの約半世紀を描いている(仲麻呂は770年に70歳で死去、真備は775年に80歳で死去)。史実をベースにした大いなるフィクションである。やや不自然に感じる展開もあるが、ラストでは往時茫々の感慨がわいた。
私にとっては、ストーリーよりもディティールを楽しむ小説だった。多くのソグド人がさまざまな立場で活躍するのが面白い。最近の高校世界史の教科書にはソグド人が登場するそうだが、私がソグド人を知ったのは数年前だ。『シルクロードと唐帝国』や『ソグド商人の歴史』などを読んで関心が高まった。ソグド人に関する一般向け概説書が出版されないかと期待している。この歴史小説が呼び水になればいいのだが。
ソグド人への関心から松本清張の『眩人』を読み、吉備真備への興味がわいた。『吉備真備』や『吉備真備の世界』によって、一応の伝記的事柄を知った。残された史料が少なく、詳細がわからない人物である。フィクションの世界では『天平の甍』や『火の鳥』でイヤミなインテリに描かれている。テレビドラマ『大仏開眼』は真備をかなり美化していた。
『ふりさけ見れば』の真備は、真面目な秀才・仲麻呂と対称的な世故に長けた出世主義の俗物に描かれている。だが、しだいに行動的な辣腕家と理念型政治家をミックスした魅力的な人物になっていく。好感がもてた。
吉備真備は詩歌をものせず、文章なども残っていない。ところが2019年12月、真備の書とされる墓誌が中国で発見されてニュースになった。『ふりさけ見れば』は、この墓誌に関する経緯もしっかり書き込んでいる。また、2004年になって新たに存在が確認された遣唐使留学生・井真成も登場する。まさに、21世紀の歴史小説である。
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