なぜ進軍を続けたかを問う『獅子王アレクサンドロス』2023年08月02日

『獅子王アレクサンドロス』(阿刀田高/講談社文庫)
 『新トロイア物語』に続いて同じ著者の次の古代史小説を読んだ。

  『獅子王アレクサンドロス』(阿刀田高/講談社文庫)

 少年アレクサンドロスが家庭教師アリストテレスに出会うシーンに始まり、32歳の若さでバビロンで病死(前323年)するまでを描いた一代記である。21歳で東征を開始したアレクサンドロスは、アケメネス朝ペルシアを滅ぼしても進軍をやめず、インダス河を越えてガンジス河を目指す。だが、帰郷を望む兵士らの声を容れて引き返す途中で客死――ひたすら進軍の生涯だった。

 アレクサンドロスを描いた本や映画は多い。数年前に読んだ『ギリシア人の物語Ⅲ』(塩野七生)のアレクサンドロスは魅力的だった。今年になって読んだ『アレクサンドロスの征服と神話』『文明の道① アレクサンドロスの時代』はアレクサンドロスを多面的に捉えていて印象深かった。

 阿刀田氏は、何故にアレクサンドロスがひたすら進軍し続けたのか、という問いをベースに物語を展開している。アレクサンドロスには侵略者と知性人の両面があった。進軍を続けたのは、真なるものを追究したい、世界の果てを見極めたいという衝動であり、その追究心はアリストテレスに培われたとしている。

 アレクソンドロスとアリストテレスの関係については、森谷公俊氏が『アレクサンドロスの征服と神話』のなかで「完全なすれ違い終わったのではなかろうか」と述べていた。アリストテレスはギリシアの枠内に留まり、アレクサンドロスはその枠を超えていたという見解である。

 獅子王は政治の実践では政治学者(哲学者)の構想の枠を超えたが、彼方を目指す探究心においては哲学者の弟子だった、ということかもしれない。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
ウサギとカメ、勝ったのどっち?

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://dark.asablo.jp/blog/2023/08/01/9606585/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。