40年以上前の直木賞受賞作を読んだ ― 2025年06月05日
1983年の直木賞受賞作『黒パン俘虜記』を古書で入手して読んだ。
『黒パン俘虜記』(胡桃沢耕史/文春文庫)
なぜ、40年以上昔の受賞作を読む気になったか、理由はいくつかある。いま、モンゴルが小マイブームで、この小説の舞台がモンゴルだと知って食指が動いた。この小説が「暁に祈る事件」を扱っていると知ったのが最大の理由だ。天皇皇后が来月(2025年7月)モンゴルを公式訪問し、抑留中に死亡した日本人の慰霊碑も訪れると報じられのも、この小説への関心を後押しした。
ポルノ小説で名を馳せた清水正二郎がペンネームを胡桃沢耕史に変えて発表した『黒パン俘虜記』が直木賞を受賞した40数年前のことはよく憶えている。あのシミショーが、と驚いた。本人が「前回受賞を逃した『天山を越えて』で受賞したかった」と語っているのを知り、本屋の店頭に積まれた『天山を越えて』を買って読み、その面白さに引き込まれ、圧倒された。そして、体験談っぽい『黒パン俘虜記』は陰気臭さそうなのでスルーした。
40数年の歳月を経て読んだ『黒パン俘虜記』は面白かった。作者は戦時中の学生時代に満州に渡り、現地招集で兵役になり、終戦にともなってモンゴルの収容所に抑留され、苛酷な収容所生活を送った。その体験がベースになった本書は、体験談とフィクションの境界が判然としない小説である。
この話は純粋にノンフィクションで書くべきだと思った。だが、ノンフクションでは直木賞の対象にならない。フィクションにするなら、全体的な体験記ではなく話題を絞って掘り下げた方が興味深い物語になったかもしれない。
私が「暁に祈る事件」を知ったのは子供の頃だ。シベリアの収容所で日本人の隊長が作業ノルマが達成できない収容者を極寒の屋外に朝まで縛りつけ、被害者は暁に祈る姿で死んでいったという私刑の話である。恐ろしい話に心寒くなった。新聞記事受け売りの母のおしゃべりを聞いただけで詳細を知らないまま月日が経った。
この小説によって「暁に祈る事件」の場所がモンゴルのウランバートル周辺の収容所だと知った。あのあたりもシベリアと言うのだろうか。小説には「吉村隊長」が実名で登場する。
ウィキペディアで胡桃沢耕史を検索すると「1949年に抑留体験をもとにした記録文学小説『国境物語』を本名・清水正二郎で発表、「暁に祈る事件」が明るみに出る端緒を作った。」とある。作者にとって、この事件の告発は大きなテーマだったようだ。なぜ、ノンフィクションではなく小説にしたのだろうか、との思いが残る。
『黒パン俘虜記』の後段では、日本に帰還する抑留者たちにスターリンの偉大さを叩きもうと「赤化」教育を施すソ連側の姿を描いている。コミカルとも言えるシーンだが、1983年の小説だからパンチが弱い。終戦直後、あるいはスターリン批判(1956年)後でもソ連の存在感がまだ重かった1960年代初頭頃、この小説が発表されていればインパクトがあったのではと思った。
『黒パン俘虜記』(胡桃沢耕史/文春文庫)
なぜ、40年以上昔の受賞作を読む気になったか、理由はいくつかある。いま、モンゴルが小マイブームで、この小説の舞台がモンゴルだと知って食指が動いた。この小説が「暁に祈る事件」を扱っていると知ったのが最大の理由だ。天皇皇后が来月(2025年7月)モンゴルを公式訪問し、抑留中に死亡した日本人の慰霊碑も訪れると報じられのも、この小説への関心を後押しした。
ポルノ小説で名を馳せた清水正二郎がペンネームを胡桃沢耕史に変えて発表した『黒パン俘虜記』が直木賞を受賞した40数年前のことはよく憶えている。あのシミショーが、と驚いた。本人が「前回受賞を逃した『天山を越えて』で受賞したかった」と語っているのを知り、本屋の店頭に積まれた『天山を越えて』を買って読み、その面白さに引き込まれ、圧倒された。そして、体験談っぽい『黒パン俘虜記』は陰気臭さそうなのでスルーした。
40数年の歳月を経て読んだ『黒パン俘虜記』は面白かった。作者は戦時中の学生時代に満州に渡り、現地招集で兵役になり、終戦にともなってモンゴルの収容所に抑留され、苛酷な収容所生活を送った。その体験がベースになった本書は、体験談とフィクションの境界が判然としない小説である。
この話は純粋にノンフィクションで書くべきだと思った。だが、ノンフクションでは直木賞の対象にならない。フィクションにするなら、全体的な体験記ではなく話題を絞って掘り下げた方が興味深い物語になったかもしれない。
私が「暁に祈る事件」を知ったのは子供の頃だ。シベリアの収容所で日本人の隊長が作業ノルマが達成できない収容者を極寒の屋外に朝まで縛りつけ、被害者は暁に祈る姿で死んでいったという私刑の話である。恐ろしい話に心寒くなった。新聞記事受け売りの母のおしゃべりを聞いただけで詳細を知らないまま月日が経った。
この小説によって「暁に祈る事件」の場所がモンゴルのウランバートル周辺の収容所だと知った。あのあたりもシベリアと言うのだろうか。小説には「吉村隊長」が実名で登場する。
ウィキペディアで胡桃沢耕史を検索すると「1949年に抑留体験をもとにした記録文学小説『国境物語』を本名・清水正二郎で発表、「暁に祈る事件」が明るみに出る端緒を作った。」とある。作者にとって、この事件の告発は大きなテーマだったようだ。なぜ、ノンフィクションではなく小説にしたのだろうか、との思いが残る。
『黒パン俘虜記』の後段では、日本に帰還する抑留者たちにスターリンの偉大さを叩きもうと「赤化」教育を施すソ連側の姿を描いている。コミカルとも言えるシーンだが、1983年の小説だからパンチが弱い。終戦直後、あるいはスターリン批判(1956年)後でもソ連の存在感がまだ重かった1960年代初頭頃、この小説が発表されていればインパクトがあったのではと思った。
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