『チンギス・カンとモンゴル帝国』は目配りのいい概説書 ― 2025年06月03日
先日読んだ『クビライ・カアンの驚異の帝国:モンゴル時代史鶏肋抄』は、かなり歯ごたえがあり、やや消化不良だった。いつの日か再挑戦するかもしれない。それまでに、わが頭にモンゴル史の基本を整理定着させたいものだ。そんなこと思いつつ、口直し気分でコンパクトな次の本を読んだ。
『チンギス・カンとモンゴル帝国』(ジャン=ポール・ルー、杉山正明監修/「知の再発見」双書/創元社)
「知の再発見」双書は画像がメインで読みやすい。この双書のなかでも本書は比較的ページ数が少なく、短時間で読了できた。だが、得るものは大きかった。モンゴルへの肯定的な記述が多いのが意外だった。
監修者の杉山正明は序文で次のように評価している。
「フランスのアジア史家ジャン=ポール・ルー氏による本書は、イスラーム美術にくわしい氏の特徴をそなえた平易で簡便な入門書である。欧米におけるモンゴル帝国史研究の成果もよくとり入れられており、日本人研究者の成果も、最近のものも含め、予想以上に参照されている。」
モンゴルの戦争・戦闘に関する記述などは、多くの人が漠然と抱いているイメージとは少し異なる。モンゴルの遠征はすべて注意深く計画され、巧妙かつ正確に遂行された。大規模な戦闘は避け、小競り合いの繰り返しで相手を疲労させ、士気を喪失させることを狙った。奸計も駆使し、相手に大いなる恐怖心を植え付け、戦わずして征服することをよしとしていたのだ。その目的のため、モンゴルの恐ろしさを流布する組織的プロパガンダを展開した。
モンゴルが宗教に寛大で、モンゴル支配下の地域では信教が自由だったことはよく知られている。本書には「モンケの受洗」の絵が載っている。第4代カアンのモンケがキリスト教に改宗したことを伝える絵である。もちろん誤報だが、当時のヨーロッパでは大きな反響を呼んだそうだ。
宗教や交易だけでなく、モンゴルにおける科学や芸術の振興にもページを割いていて興味深い。目配りのいい概説書である。
『チンギス・カンとモンゴル帝国』(ジャン=ポール・ルー、杉山正明監修/「知の再発見」双書/創元社)
「知の再発見」双書は画像がメインで読みやすい。この双書のなかでも本書は比較的ページ数が少なく、短時間で読了できた。だが、得るものは大きかった。モンゴルへの肯定的な記述が多いのが意外だった。
監修者の杉山正明は序文で次のように評価している。
「フランスのアジア史家ジャン=ポール・ルー氏による本書は、イスラーム美術にくわしい氏の特徴をそなえた平易で簡便な入門書である。欧米におけるモンゴル帝国史研究の成果もよくとり入れられており、日本人研究者の成果も、最近のものも含め、予想以上に参照されている。」
モンゴルの戦争・戦闘に関する記述などは、多くの人が漠然と抱いているイメージとは少し異なる。モンゴルの遠征はすべて注意深く計画され、巧妙かつ正確に遂行された。大規模な戦闘は避け、小競り合いの繰り返しで相手を疲労させ、士気を喪失させることを狙った。奸計も駆使し、相手に大いなる恐怖心を植え付け、戦わずして征服することをよしとしていたのだ。その目的のため、モンゴルの恐ろしさを流布する組織的プロパガンダを展開した。
モンゴルが宗教に寛大で、モンゴル支配下の地域では信教が自由だったことはよく知られている。本書には「モンケの受洗」の絵が載っている。第4代カアンのモンケがキリスト教に改宗したことを伝える絵である。もちろん誤報だが、当時のヨーロッパでは大きな反響を呼んだそうだ。
宗教や交易だけでなく、モンゴルにおける科学や芸術の振興にもページを割いていて興味深い。目配りのいい概説書である。
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