若手作家10人の競作短編集『あえのがたり』2025年01月31日

『あえのがたり』(加藤シゲアキなど10人/講談社/2025.1)
 能登半島応援チャリティ小説と銘打った10人の作家による短編集を読んだ。

 『あえのがたり』(加藤シゲアキなど10人/講談社/2025.1)

 チャリティ小説という言葉は初耳だ。違和感がある。仕掛け人は、加藤シゲアキ、小川哲、今村翔吾の3氏らしい。挟み込み付録に3氏の鼎談がある。

 このチャリティに参加した作家は、加藤シゲアキ、朝井リョウ、今村昌弘、蝉谷めぐ実、荒木あかね、麻布競馬場、柚木麻子、小川哲、佐藤究、今村翔吾の10人である。私にとって大半は未知の作家である。作品を読んだことがあるのは小川哲、朝井リョウの2人だけだ。

 本書を読もうと思った動機は二つある。齢を経て最近の小説家への関心が薄れてきているので、本書を機に、現在の若手作家の作品に触れるのも一興だと思ったのが第一点である。第二点は、全編が1万字(四百字原稿用紙で25枚)の短編ということだ。25枚は最も読みやすく過不足ない長さだと思う。チャリティという名の競作短編集だから、それぞれの作家が力量を発揮した珠玉短編が期待できる。

 「あえのがたり」とは「被災地の方を物語でおもてなしする」という意味だそうだ。奥能登の農家で、田の神に感謝をささげる祭りを「あえのこと」と呼ぶ。「あえ」は「おもてなし」を意味する。10人の作家による「おもてなし物語集」である。

 10編すべてが能登を題材にしているわけではない。「おもてなし」をテーマにした作品もある。それぞれの短編を面白く読んだが、長編にふわしい題材を無理に短編に押し込めたように感じられる作品もある。度肝を抜かれるブッ飛んだ作品はない。

 私が面白いと思ったのは「うらあり」(朝井リョウ)、「限界遠藤のおもてなしチャレンジ」(柚木麻子)、「エデンの東」(小川哲)である。

 小川氏の作品は、おもてなし小説執筆中の作家に関するメタフィクション的な短編である。面白いが、チャリティ小説でこの手を使うか、という気もする。

 朝井氏の作品は、就職を間近にした男女大学生4人の話である。リアルとバーチャルの二つの世界に生きる若者の微妙な心理に現代を感じた。

 柚木氏の作品は、大学卒業から十数年経った友人たちの話である。背景にブラック企業らしきものもある。生きにくい世の中を何とか生き抜いていく姿に現代を感じた。