十数年前のテレビ対談本を読んだ2025年01月28日

『ベストセラー炎上』(西部邁・佐高信/平凡社/2011.9)、『日本および日本人論』(西部邁・佐高信/七つ森書館/2012.8)
 西部邁の最後の著書『保守の遺言』で久々に綿々嫋嫋たる西部節に接し、西部氏の自死の直後に古書で入手して積んだままの対談本2冊を思い出した。佐高信氏との対談である。思い出したのを機に、ほぼ1日で2冊を一気に読んだ。

 『ベストセラー炎上』(西部邁・佐高信/平凡社/2011.9)
 『日本および日本人論』(西部邁・佐高信編/七つ森書館/2012.8)

 西部・佐高の両氏は保守とリベラルだが妙にウマが合い、今はなき「朝日ニュースター」というCSテレビで対談番組を続けていた。そのテレビ対談を書籍化したのがこの2冊である。テレビ番組を視聴する気分でサラサラ読める。

 『ベストセラー炎上』のサブタイトルは「妙な本が売れる変な日本」。当時(2007~2010年)のベストセラーをメッタ切りにしている。俎上に乗るのは次の6点だ。

 勝間和代『断る力』
 村上春樹『1Q84』
 内田樹『街場のメディア論』
 竹中平蔵『「改革」はどこへ行った?』
 塩野七生『日本人へ:リーダー篇』『日本人へ:国家と歴史篇』
 稲盛和夫『生き方』

 この中で私が読んでいるのは『1Q84 BOOK1,2』『1Q84 BOOK3』だけである。「大の大人が問題にするような本じゃない」「活字の流動食」という両氏の見解に同感である。村上春樹への違和感の所以を納得した気分になった。

 塩野七生批判も納得できた。両氏は『ローマ人の物語』を読んでない。読む必要もないと考えている。私は『ローマ人の物語』を面白く読んだ。いずれ再読したいとも思っている。塩野氏の他の歴史モノも面白く読んだ。にもかかわらず、両氏の塩野批判に同感できる。粗雑で単純な見解に満ちた歴史物語として楽しめばいいと思う(司馬遼太郎と同じ)。

 その他のベストセラーに関する議論も、本をサカナにした両氏の持論展開を楽しめた。

 今はなき七つ森書館から出た『日本および日本人論』は、ゲストを招いた三つの座談会を収録している。2010、2011、2012年の正月特別番組のようだ。この時期、日本は民主党政権である。各座談会のタイトルとゲストは次の通りだ。

 「日本人の感性を探る」なかにし礼、田中優子
 「これからの日本の行方は?」黒鉄ヒロシ、加藤陽子
 「資本主義とは何か?」柴山桂太、中島岳志

 「日本人の感性を探る」では、なかにし礼を前に西部邁が『石狩挽歌』を披露する。それだけでなく、得意の『蒙古放浪歌』まで歌いあげる。どちらも私の好きな歌なので感動した。この部分は活字でなくテレビで観たかった。作詞者不詳の『蒙古放浪歌』成立の分析が興味深い。

 「これからの日本の行方は?」は幕末維新から日米開戦にいたる歴史を素材に歴史記述について議論し、「資本主義とは何か?」は新自由主義や構造改革を批判し経済学も批判している。いずれもスリリングで面白い座談会だ。

 この2冊、読みやすくて面白い。しかし、リアルタイムで読むべき本だと思った。対談や座談会は生モノである。十数年経って当時の生モノを論じるのは間抜けた話になりそうだ。歴史文書として読めばいいのかもしれないが、歴史と言うには近すぎる。