イタリア史は把握しにくい2024年07月25日

 私はイタリアの歴史に関わる本をいくつか読んできた。古代ローマ史、シチリア史、フェデリコ2世、ルネサンス、ムッソリーニなどの本だ。だが、そんな本から得た知見はバラバラであり、イタリア史という全体的イメージは描けない。そもそも読んだ本の内容の大半は失念している。イタリア史のマクロな姿を把握したいと思い、次の新書を読んだ。

 『イタリア史10講』(北村暁夫/岩波新書)

 やや教科書的で、イタリア史の概要を要領よく解説している。と言っても、読了して私が把握したのは、イタリア史は複雑で把握しにくいということだった。年代順の10講は以下の通りだ。

 第1講 諸文化と古代ローマ(黎明期~4世紀)
 第2講 三つの世界の狭間で(5世紀~11世紀)
 第3講 南北のイタリア(中世盛期 12世紀~14世紀)
 第4講 ルネサンスの時代(15世紀を中心に)
 第5講 宗教改革と五大国の時代(15世紀後半~17世紀前半)
 第6講 バロックから啓蒙改革へ(17世紀後半~18世紀)
 第7講 リソルジメントの時代(19世紀前半)
 第8講 自由主義期と国民国家形成(19世紀後半~20世紀初頭)
 第9講 ファシズムの時代(20世紀前半)
 第10講 イタリア共和国(20世紀後半~現在)

 第2講の「三つの世界」とは「ビザンツ帝国」「イスラーム勢力」「ラテン語化・カトリック化したゲルマン諸族(フランク王国、ランゴバルド王国など)」である。イタリアはいつの時代も、この三つに限らず様々な外部勢力の影響下にあった。周辺の外部諸国の事情や歴史を知らなければイタリア史を理解できないところにイタリア史の難しさがある。

 第5講の「五大国」とは「ヴェネツィア共和国」「ミラノ公国」「フィレンツェ共和国」「ナポリ王国」「教皇国家」である。それぞれが独自の文化と歴史をもつ「国」である。そんなバラバラの状態で互いの関係も複雑だ。そんな点にもイタリア史をマクロに把握する難しさがある。

 リソルジメントという言葉はイタリア統一を目標にしたわけではなく、イタリア諸国の復興・再興をめざしと運動だったと本書で知った。イタリアという共同幻想の形成は容易でなかったようだ。

 と言っても、イタリアは元からバラバラだったわけではない。ローマ帝国は現在のイタリアを中心にした広大な帝国だった。ムッソリーニはローマ帝国の復興を夢見ていたかもしれない。だが、ローマ帝国が現代のイタリアに直結しているようには見えないのもイタリア史のわかりにくさだ。

 本書は近現代が詳しい。私にとっては第6講以降(17世紀以降)は未知の事項が多く、勉強になった。イギリスの産業革命にイタリアが一定の役割を担ったという話が興味深い。イタリアのオリーブ油が歯車の潤滑油として重宝されたそうだ。

 本書は、歴史的事象から生まれたベルディのオペラ「レニャーノの戦い」「シチリアの晩禱」やシュトラウスの「ラデツキー行進曲」にも触れている。芸術作品が国家という共同幻想の形成に一定の役割を果たしたのだと思う。これらの芸術作品に鼓舞された勢力がある一方でその対抗勢力もあるはずだ。その感覚は現代まで続いているのだろうか。歴史的事象は捨象され、もはや純粋に芸術として鑑賞されているのかだろうか。当事者でない私にはよくわからない。