映画字幕をめぐるアレコレは面白い2024年08月22日

『字幕屋のホンネ:映画は日本語訳こそが面白い』(太田直子/知恵の森文庫/光文社/2019.2)
 映画字幕翻訳者が書いたドストエフスキー紹介本『ひらけ! ドスワールド』の軽妙な文章が面白かったので、同じ著者の次のエッセイを読んだ。

 『字幕屋のホンネ:映画は日本語訳こそが面白い』(太田直子/知恵の森文庫/光文社/2019.2)

 映画字幕翻訳にまつわるアレコレを暴露したエッセイである。身近に接している映画字幕の背景に私の知らないさまざまな事情があると知り、「へぇー」と思いながら楽しく読了した。

 本書の原題は『字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ』(2007年刊)で、著者の最初の本である。著者は2016年に56歳で亡くなっている。著者の死後3年の文庫化にあたって改題している。

 私は原題の方がいいと思う。内容にもマッチしている。生前の著者は改題を承知していたのだろうか。文庫化にあたって、版元が独自の営業的判断で改題したのかもしれない。原題は一部の人にはウケるかもしれないが、何を言いたいのかわかりにくい。そもそも長すぎる。多くの読者に売るには、もっと短くてわかりやすい題名がいいと、誰かが判断した可能性もある。

 ――こんなことを考えたのは、売り手のオトナの事情のアレコレがもたらすアレコレが、著者が本書で描いている字幕をめぐる状況とパラレルだと感じたからである。入れ子細工のようで面白い。

 映画字幕にはさまざまな制約があり、俳優の台詞をそのまま翻訳しているわけではない。一画面で容易に読み取れる字数制限があるのは当然だが、それ以外にもさまざまな制約があると知った。台詞のない余韻画面にまで字幕を要求されることもあるそうだ。

 いずれにしても、いかに少ない文字数で過不足なく伝えるかの技術は興味深い。文章を、より「わかりやすく」、より「短く」する技術は重要で有用だと思う。

 本書は、字幕をネタに現代の日本語へのいろいろな違和感も提示している。「そんなに叫んでどうするの~「!」の話」では「!」の多用への苦言を呈している。にもかかわらず、本書の章題では「!」を連発し、本書(原版)の後に出した本のタイトルは『ひらけ! ドスワールド』だ。

 著者のそんなところにも面白さを感じる。

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