「謎に満ちたモアイ」を読み、わが頭の硬さを再認識2012年07月22日

『ナショナルジオグラフィックス日本版 2012年7月号』表紙、上空に雲をいだくイースター島(ラパヌイ)全景
 『ナショナルジオグラフィックス日本版 2012年7月号』の巻頭記事は「謎に満ちたモアイ」だ。イースター島(現地名:ラパヌイ)へは4年前に行き、モアイもたっぷり見ているので、興味をもって読んだ。そして、びっくりした。

 イースター島を訪れる前に簡単な解説本に目を通していたし、現地での説明も受けたので、この島の歴史について多少は知っているつもりだった。とは言っても、イースター島の歴史は実はよくわかってはいない。

 イースター島は、ポリネシア人が移植してくる以前はヤシの木が繁る緑豊かな島だった。イースター島の緑が失われたのは人口増加による乱開発と部族間の抗争(モアイ倒し戦争)だった。それが、私の乏しい知識のあらましだった。

 『ナショナルジオグラフィックス』は、その通説(?)に対抗する新たな説を紹介している。イースターの森林破壊は人間によるものではなく、人間がもちこんだネズミによるものであり、文明破壊的な部族抗争はなかった、とするのが新設だそうだ。この記事だけでは詳しいことはわからないし、もちろん真実は不明だが、安易に通説(?)を信じていた自身の頭を反省した。

 イースター島に関しては、訪問直前に得たヘイエルダールに関する最近の知見に驚いた体験もある。
 ヘイエルダールの『コン・ティキ号探検記』に接したのは小学生の頃だと思う。昔の筏を復元したコン・ティキ号で大陸からどこかの島までの航海を敢行し、大陸から島への文明伝播をついに証明した……そんな感動的な冒険成功航海記という記憶があった。
 イースター島訪問直前に、コン・ティキ号が目指したのはイースター島だったと知った。ヘイエルダールはポリネシア文明の起源をインカ文明とする説を証明するため、南米からイースター島に航海したのだ。航海は成功したが、ポリネシア文明の起源を南米とする説は現在では否定されている。DNA調査などによりアジア起源とされている。
 このことを知り、学説のはかなさを感じた。にもかかわらず、別の学説は疑うことなく受け容れていたのだ。頭を柔らかくするのは難しい。

 『ナショナルジオグラフィックス』の記事で衝撃を受けたのには、そんな背景もある。

 それはともかく、この記事を読んで、4年前のイースター島訪問の記憶がよみがえり、船の甲板から眺めた島の全景がまぶたに浮かんできた。

 離島のとき、後部甲板からイースター島を眺めた。大海に浮かぶ島の上空だけが雲に覆われていた(写真参照)。湿った空気が山にぶつかると上昇気流によって雲が発生する。そんなことは頭では知っていたが、実景でその様を眺めると感動した。
 イースター島に高い山はない(せいぜい海抜500メートル程度)。しかし、絶海の孤島である。360度の大海原に浮かぶ低いイースター島の上空だけに雲が密集している光景に、大自然の摂理の顕れを感じた。

 遠い昔のポリネシアの人々が、カヌーのような船でどのようにして何千キロメートルもの大航海していたかは知らない。島の上空に発生する雲がひとつの道標になったのかもしれないと想像した。