『地中海世界の歴史』全8巻の第1巻を読んだ2024年12月08日

『神々のささやく世界:地中海世界の歴史1 オリエントの文明』(本村凌二/講談社選書メチエ)
 ローマ史家の本村凌二氏による全8巻のシリーズ『地中海世界の歴史』の第1巻、第2巻が刊行されたとの新聞記事を読んだのは今年の春だった。その後すでに4巻まで刊行されている。その第1巻を読んだ。

 『神々のささやく世界:地中海世界の歴史1 オリエントの文明』(本村凌二/講談社選書メチエ)

 本村氏の一般向けの歴史書は語り口が親しみやすく、私は愛読している。『地中海世界の歴史』シリーズは、ローマ史という専門領域を越えてメソポタミア文明から古代末期までの4000年の通史を一人の史家の視点で描くという試みである。

 『神々のささやく世界』を読んで、碩学の楽しい講義を聞いている気分になった。時おりつぶやきめいた感想が漏れるのが面白い。雑談や脱線は講義の魅力だ。本書には繰り返しがある。それも講義のようだ。強調したい事項は繰り返し語るのだと思う。頭に残りやすい。

 第1巻はシュメールから古バビロニア、ヒッタイトにいたるオリエント史、古王国から新王国にいたるエジプト史、オリエントとエジプトに挟まれた地帯のヘブライ人やフェニキア人の歴史を語っている。

 本書が強調しているのは、書名が表しているように、古代とは人々が神々のささやきを聞くことができた世界だ、ということである。そんな世界は前1000年頃まで続いたそうだ。神々のささやきを聞くことができた古代人の精神構造は現代人とはかなり異なっていたとの指摘が興味深い。彼らには、現代人がもっている「意識」というものが希薄だったそうだ。神々のささやきが聞こえなくなったときに「意識」がめばえたという。それが一神教の誕生に関連していく。

 本書は、著者が『多神教と一神教』(岩波新書)で述べた見解を敷衍した内容になっているようだ。馬がひく戦車が登場する場面などでは著者の『馬の世界史』(中公文庫)を想起した。『地中海世界の歴史』シリーズは、著者のこれまでの著作を集大成した史書になるのだと予感した。これから読み進めていくのが楽しみである。