『大モンゴル』最終回はクリミア・タタール人の現在2021年12月12日

『大モンゴル3:大いなる都/巨大国家の遺産』(NHK取材班編/角川書店)
 1992年放映のNHKスペシャル『大モンゴル』書籍版の第3巻である。

 『大モンゴル3:大いなる都/巨大国家の遺産』(NHK取材班編/角川書店)

 この巻は次の2回分の番組内容を収録している。

 第4集『大いなる都』
 第5集『巨大国家の遺産』 

 「大いなる都」とは、フビライが築いた計画都市・大都(北京)である。大都は運河で海に直結する都として建設された。クビライは南宋を接収する以前から、海運の拠点である江南と大都を直結させた海運国家を構想していたらしい。

 この番組ではフビライの時代の大都をCGで再現している。本書はそのCG画像を何点か掲載していて、これが興味深い。大運河の俯瞰や運河を往来する目線の画像もあり、海に直結する往時の都の様子を実感できる。

 最終回『巨大国家の遺産』はモンゴル後継国家の話である。18世紀まで存続し、最後のモンゴル帝国とされるクリム・ハーン国の話が面白い。現代史に直結しているのだ。

 クリミア半島にあったクリム・ハーン国がロシアに併合されて滅亡したのは1783年、エカテリーナ2世の時代である。それ以前のクリム・ハーン国はかなり存在感のある国だった。キプチャク・ハーン国の中からモスクワ国(ロシア)が台頭したのは、モンゴルに取り入ったからであり、ロシアとモンゴルの王室の間でにはかなりの血の交流があった。16世紀に活躍したイワン雷帝は一時期、キプチャク・ハーン国のハーン直系子孫に帝位を譲っている。この不思議な譲位は、ロシアがクリム・ハーン国からの攻撃を牽制するためだったのでは、と言われているそうだ。

 クリム・ハーン国がロシアに併合されてからもクリミアにはタタール人が住んでいた。だが独ソ戦さなかの1944年、スターリンはクリミア・タタール人全員を中央アジアに強制移住させた。彼らはその後、クリミアへの帰還運動を繰り広げている。番組放映の前年の1991年2月、クリミア自治共和国が復活したが、クリミア・タタール人はロシア人主導のこの自治共和国を認めていない。

 番組は、クリム・ハーン国をシンボルに独立国家建設運動を続けているクリミア・タタール人をレポートしている。

 本書刊行から30年、ウクライナとロシアのはざまのクリミアは依然として紛糾の地である。

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