歴史の概説書と思って読んだら「研究史」の概説書だった2021年05月11日

『歴史世界としての東南アジア』(桃木至朗/世界史リブレット/山川出版社)
 今年の3月から4月にかけて読んだ『世界史との対話』(全3冊)の『第28講 東南アジアからみた「大航海時代」』(中巻収録)は、かつて「地理上の発見」と言われた時代が実は「発見」などではなく、すでに東南アジアの海では交易が盛んだったことを描いていて興味深かった。

 あの時代、東南アジアの海岸には「港市国家」という独特の国家が発達していたそうだ。もう少し詳しく知りたくなり、第28講の末尾のブックガイドを眺めた。紹介された24点のなかから、最も手軽に読めそうな次のブックレットを入手して読んだ。

 『歴史世界としての東南アジア』(桃木至朗/世界史リブレット/山川出版社)

 この本は私の想定した内容とは大きく異なっていた。東南アジアの「港市国家」の姿を知りたくて読んだが、東南アジアの交易時代を概説する啓蒙書ではなく、「研究史」の概説書だった。少々面食らったが、こんな内容になった事情は納得できた。

 インドシナ半島からインドネシアやフィリピンなどの島嶼部までをカバーする東南アジアを総合的にとらえる「東南アジア史」研究は、実はかなりややこしいようだ。そのややこしさを伝えるため、著者はあえて、研究者たちが「東南アジア史をどのようにとらえてきたか」を概説する研究史という形をとっている。

 というわけで、私には未知の研究者たちの学説紹介の展開を読むことになった。話は歴史学だけでなく文化人類学・社会学・考古学などに広がる。門外漢の私が著者の議論を十分に理解できたわけではないが、研究者たちの甲論乙駁は面白い。歴史研究の現場の雰囲気が少しわかった気がした。

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