カズオ・イシグロ『クララとお日さま』のやるせなさ2021年05月07日

『クララとお日さま』(カズオ・イシグロ/土屋政雄訳/早川書房)
 カズオ・イシグロのノーベル文学書受賞第一作を読んだ。話題作である。

 『クララとお日さま』(カズオ・イシグロ/土屋政雄訳/早川書房)

 童話のようなタイトルと装丁である。タイトルが暗示するとおりに、おとぎ話のような雰囲気の話で、それがSF仕立てになっている。

 2017年にカズオ・イシグロがノーベル文学書を受賞したとき、はじめてその小説を読み、その世界に引き込まれて続けて 何冊もの長編 を読んだ。あれから3年半、久々のイシグロ世界に接し、「相変わらずだな」という思いと「何か変わっているな」という思いが半々である。それを明確に表現できないのがもどかしい。

 静謐な一人称小説はイシグロ世界の定番だが、AF(人工親友)というアンドロイドの一人称で通しているところが不思議で、奇異でもある。機械に意識を発生させる「機械の意識」という先端科学テーマのSFというわけではなさそうだが、この一人称の意識は人間とは少し異なっているように見える。感情や心のありようを追究した文学だと思うが、そこにかすかなニヒリズムの悲哀を感じる。

 断片的に描かれた未来世界(異世界というべきか)の様子も基本的には荒涼としている。そのなかに暖かさや心地よさを見出そうとしているのが何ともやるせない。寓話のようでもあり、心象風景のようでもある。

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